2020 Fiscal Year Annual Research Report
「逆グロータス機構」に基づく高ヒドリドイオン伝導体の創成
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19J23505
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
福井 慧賀 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | イオン伝導 / ヒドリドイオン |
Outline of Annual Research Achievements |
水素の陰イオンであるヒドリドイオンは高い酸化還元電位(-2.3 V)および反応性を持つことから,化学電池・燃料電池などのエネルギーデバイスや触媒など化学合成プロセスへの応用が期待されている.筆者らは酸水素化ランタンが中温域(350°C)において10 mS/cmを超えるヒドリドイオン伝導度を示すことを報告したが,幅広い用途への利用を目指すには作動温度の低減および伝導度の向上が不可欠である. これまでの研究から,酸水素化ランタン中の酸素は電子伝導性を抑制する効果を持つ一方,周辺のヒドリドイオンの移動を妨げる作用を有することがイオン伝導度の組成依存性や分子動力学シミュレーションにより明らかとなっている.そこで酸水素化ランタンと同じ「アニオン過剰蛍石型」の結晶構造でありながら酸素を含まない水素化物に着目し,イットリウム-マグネシウム水素化物系やランタン-カルシウム水素化物系などの水素化物固溶体について伝導特性を評価した. 3価の希土類イオンの一部を2価のカチオンで置換することにより,酸化物イオンによるヒドリドイオンの置換と同様に電子伝導性が抑制されることが確認された.また酸素を含まないことによりイオン伝導の活性化エネルギーが小さくなり,より低温で高いヒドリドイオン伝導度を示すことが明らかとなった.さらに酸水素化ランタンについても再度物性評価を行ったところ,酸素量を大幅に減らした場合に活性化エネルギーが大幅に低下し,室温で実用上十分なヒドリドイオン伝導度を示すことが判明した.このような低酸素量であっても電子伝導性は十分に抑制されており,室温で動作可能なヒドリドイオン電解質が実現されたといえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は酸水素化ランタンにおけるヒドリドイオン伝導現象を解析することを通じ,より低温で高い伝導度を示す高性能なヒドリドイオン伝導体を開発することを目的としている.イオン伝導機構に関しては未だ不明な点があるものの,これまでの研究から得られた知見に基づくことにより室温で動作可能なヒドリドイオン伝導体の実現に成功した.第3年次の目標である低温作動化が達成されたことから,本研究は当初の計画以上に進展していると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によりアニオン過剰蛍石型構造を有する酸水素化ランタン,イットリウム-マグネシウム水素化物系およびランタン-カルシウム水素化物系のいずれもが低温で高いヒドリドイオン伝導度を示すことが明らかとなった.このように構成元素が異なっても同様の物性を持つことから,この高速ヒドリドイオン伝導はアニオン過剰蛍石型構造に由来するものであるといえる.通常イオン伝導度は伝導に寄与する空孔がある程度多い場合に最も高くなるが,これらアニオン過剰蛍石型水素化物では過剰量が多いほど,すなわち空孔が少ないほど伝導度が高くなる傾向が見られる.そのためこれらの物質中では特異的な伝導現象により高速ヒドリドイオン伝導が実現していると考えられる. そこで今年度は伝導特性評価に加え中性子測定を用いた伝導状態の観察を行い,これらの物質中でのヒドリドイオン伝導を詳細に解析する計画である.アニオン過剰蛍石型水素化物における高速ヒドリドイオン伝導の起源を解明することで,固体のイオン伝導現象について新たな学術的知見が得られるだけでなく,固体電解質の高性能化に寄与する物質科学的要素が明らかになると期待される.
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