2020 Fiscal Year Annual Research Report
基質模倣物による水酸化酵素の制御を利用した菌体内物質変換系の開発
Project/Area Number |
19J23669
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
唐澤 昌之 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | バイオ触媒 / 菌体触媒 / シトクロムP450 / 酸化反応 / 擬似基質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請課題は、不活性な炭化水素を水酸化し、より有用な化合物へと変換する菌体触媒の開発を目標とする。シトクロムP450BM3は長鎖脂肪酸を水酸化する酵素であるが、「擬似基質」と呼ばれる基質の模倣物を取り込ませることで、通常では水酸化できないベンゼンやプロパンといった非天然基質を水酸化可能となる。しかし、P450BM3は反応を行う際にエネルギーとして高価なNADPHを消費してしまい、このことが応用への障壁となってきた。そこで本研究では、P450BM3を発現させた大腸菌に擬似基質を取り込ませ、生体内のNADPH供給を利用して反応を行う、より実用的な菌体触媒の開発に取り組んでいる。申請者は昨年度、大腸菌の膜タンパク質OmpFの孔を広げた変異体を作成し、擬似基質の取り込みを促進する系の開発に成功した。先行研究から擬似基質の構造を変えることで、水酸化の立体選択性を制御できることが明らかとなっており、当該年度は、P450BM3とポリン変異体を共発現させた大腸菌を菌体触媒とし、インダンのようなベンジル位を持つ基質を対象とした水酸化反応を実施した。また、菌体が産生可能な化合物を擬似基質として利用することを目指し、P450BM3とクオラムセンシング化合物との共結晶化に取り組んだ。炭素鎖C16のアシルホモセリンおよびC12のアシルホモセリンラクトンとの共結晶のX線結晶構造の取得に成功し、炭素が短いこれらの化合物が擬似基質として機能する可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までに、擬似基質の大腸菌への取り込みに関与するタンパク質を特定し、擬似基質の取り込みを促進する変異体を開発した。本年度はさらに、基質の適用範囲を拡大し、インダン、テトラリン、エチルベンゼン、プロピルベンゼンといったベンジル位を持つ化合部の菌体触媒による水酸化を実施した。GC収率は60-90%と比較的良好に進行し、今後さらなる基質の適用範囲の拡大が期待できる結果が得られた。また、菌体が産出可能な化合物を擬似基質とする反応系の開発に着手し、菌体間コミュニケーション物質およびその代謝物とP450BM3との共結晶のX線構造解析を行った。今年度までに、炭素鎖C16のアシルホモセリンおよびC12のアシルホモセリンラクトンとP450BM3との共結晶の結晶構造の解析に成功した。これらの化合物の炭素鎖を短くした化合物が擬似基質として機能すると期待し、炭素鎖が4-10の化合物の合成まで完了した。以上の結果から、当申請課題はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
ポリン変異体の機能を確認するため、P450BM3の反応による議論ではなく、蛍光分子を用いることで、菌体への取り込みを直接観察可能な系を構築する。また、合成した短鎖のオートインデューサーが擬似基質として機能するかを、精製したP450BM3を用いて評価する。基質はベンゼンを予定しているが、活性が著しく低い場合には、より反応性の高い基質を検討する。
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