2019 Fiscal Year Annual Research Report
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19J23671
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
深谷 菜摘 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 超分子ポリマー / 分子集合体 / ジケトピロロピロール / 超分子化学 / 一重項分裂 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は,細胞内部における光線力学反応への応用に向けて,優れた一重項分裂特性を示すπ電子系集合体の創出に取り組んだ.一重項分裂とは,光励起により生成した一つの一重項分子が隣接する分子と作用し,二つの励起三重項分子を生ずる現象であり,その効率は分子配向に強く依存する.本研究では,一重項分裂や励起子輸送が期待されるジケトピロロピロール(DPP)集合体に着目した.申請者が水媒体中で調製したシート状DPP集合体は,高い吸光度をもつ吸収帯を長波長領域に示し,その過渡吸光度はコヒーレントフォノンに起因する周期的な変調を示すのが特徴である.一方,側鎖に異なるアルキル基を導入したDPP誘導体を合成したところ,粒子状集合体を形成し,吸収帯の幅広化と迅速な振動位相緩和が確認された.これらの光特性の比較から,シート状DPP集合体ではDPP部位が規則正しく並んでおり,優れた一重項分裂特性の発現が期待された.そこで,シート状DPP集合体に過渡吸収分光と計算化学を適用し,一重項分裂特性と分子配向を実験的,理論的に評価した.過渡吸収スペクトル測定の結果,高い効率で励起三重項分子が生成していることを見出した.また,分子動力学計算により,アミド基の分子間水素結合の形成や,アルキル基の構造がDPP部位の分子配向に及ぼす影響を明らかにした.さらに,DPP二分子間の重なりを変えたときの二量体の吸収特性を量子化学計算により網羅的に調べ,観測された吸収スペクトルを再現する分子配向について知見を得ることに成功した.超分子化学の枠にとどまらず,光物理化学や計算化学の知見を取り入れながら研究を進めるアプローチにより,多様な光・電子物性を示すπ電子系集合体に関する理解が深まると期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,DPP集合体内部の分子配向について知見を得るため,計算化学による評価に取り組んだ.具体的には,長波長領域に高い吸光度の吸収帯を示すシート状DPP集合体内部において,DPP部位がどのように並んでいるかを調べるため,計算化学を専門とする研究グループに約半年間滞在し,申請者自身の手で分子動力学 (MD)計算および量子化学計算を実施した.MD計算の結果から,アミド基の分子間水素結合の形成や,側鎖のアルキル基の構造がDPP部位の高秩序な分子配向の発現に重要であることがわかった.実際に,側鎖に異なるアルキル基を導入したDPP誘導体を合成し,集合特性と光特性を評価した.その結果,幅広い吸収帯を示す粒子状DPP集合体が得られ,アルキル基の構造がDPP部位の配向に与える摂動は大きいことが実証された.さらに,様々な配向を有するDPPの二量体を生成するプログラムを作成し,TD-DFT計算により二量体の吸収スペクトルを網羅的に計算し,実験結果を再現する分子配向について知見を得た. 以上の結果に加えて,フェムト秒過渡吸収スペクトル測定により,シート状DPP集合体の一重項分裂特性について評価した結果,高い効率で励起三重項分子が生成していることを見出した.また,強励起条件では励起子消滅過程が起こっていることが示唆された.励起光強度を変えて測定した結果,シート状DPP集合体の方が粒子状DPP集合体よりも効率的に励起子が拡散することが分かった. 当初計画していた「緩衝液中での光感受性DPP集合体の創出」は取り組めていないものの,光物理化学や計算化学の評価法を取り入れながら研究を進めるアプローチにより,DPP集合体の光誘起ダイナミクスと分子配向について理解を深めることができた. 以上の成果から,おおむね順調に進展していると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度以降は,光線力学的反応への応用に向けて,シート状DPP集合体の近赤外発光量子収率の測定により,一重項酸素の生成効率を評価する.また,シート状DPP集合体の形成機構について熱力学的,速度論的に評価を行い,細胞内への導入に向けて,自発的な自己集合を一時的に抑制できる条件を見出す. 細胞内にπ電子系集合体を導入する手法を確立するためには,導入過程の詳細な機構の解明が鍵となる.そこで,上記の研究と並行して,集合過程を速度論的に制御できる発光性超分子ポリマーを創出し,蛍光イメージングによる細胞内への導入機構の解明に取り組む.申請者はこれまでに,水媒体中における超分子重合の研究を展開し,DPP誘導体の超分子重合過程の速度論的制御に成功している.この知見を活かし,本研究では水中での速度論的制御が可能なアミノ酸ジアミドが導入された耐光性蛍光色素を設計した.アミノ酸ジアミド同士の分子間水素結合により集合体の形成が誘起され,アミノ酸残基を変えることにより集合体内部におけるπ電子部位の分子配向を制御できると考えた.はじめに,アミノ酸残基を変えた誘導体を合成し,種々のスペクトル測定および顕微鏡観察を用いて集合体構造を評価する.また,熱力学的,速度論的な評価により,発光性超分子ポリマーの形成機構を明らかにする.集合体内部の分子配向や,集合体形成の初期過程のダイナミクスについては,分子動力学計算や量子化学計算を用いて知見を深める.さらに,STED顕微鏡により,細胞内への導入過程,および細胞内における集合体形成過程をリアルタイムに直接観察し,その機構を明らかにする.
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Research Products
(4 results)