2020 Fiscal Year Annual Research Report
ジアセチレン骨格を基盤としたナノチューブ構造体の精密合成
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19J23674
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
戸谷 充寿 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 有機ナノチューブ / らせんポリマー / Helix-to-Tube / ジアセチレン / ヘテロカップリング |
Outline of Annual Research Achievements |
カーボンナノチューブ(CNT)や有機分子が集まって合成される有機ナノチューブ(ONT)など、nmサイズのチューブ、いわゆる「ナノチューブ」は 空洞をもつ筒状物質であり、多種多様な機能をもつことが知られている。現在、魅力的な性質を示す有機ナノチューブの「合成」に関する研究 が精力的に行われているが、簡便に精密に強固なナノチューブを合成する手法は確立されていない。これに対してらせん高分子から有機ナノチューブを精密に形成する全く新しい合成法「Helix-to- Tube法」を用いることで多種多様な機能を示す剛直な有機ナノチューブを一段階で合成することに取り組んだ。有機ナノチューブライブラリーの構築を加速させるためには、現在までに取り組んでいたホモカップリングによる合成だけではなく組み合わせ方次第で指数関数的に合成されるナノチューブの種類が増加するヘテロカップリングによる合成が望ましい。そこで、脱水重縮合によるヘテロカップリングの利用を検討した。具体的には、ジアミンとジアルデヒドの組み合わせとボロン酸とカテコールの組み合わせの2種類を利用してナノチューブの合成を行った。合成した有機ナノチューブについては紫外可視吸収スペクトルや蛍光スペクトル、円偏光二色性スペクトルなどの分光分析による物性評価と構造評価を行った。また得られた結果から現在、これらのモノマー、 らせん高分子、有機ナノチューブ合成においてそれぞれで適切な側鎖部位や中心骨格について検討を行っている。 本成果は、新しい有機ナノチューブの合成手法として「Helix-to-Tube法」が有用であり汎用性も高いということを示す上で重要であるだけでなく、今後の新規有機ナノチューブの創出と合成法の応用展開を促進する上で欠かせない意義のあるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の研究課題として「Helix-to-Tube法を指向したヘテロカップリングによる様々なMOF型らせんフォルダマーの合成研究およびその物性評価」に取り組んだ。ジアセチレン骨格を主鎖に含む高分子がらせん構造を形成することに注目し、らせんピッチ間におけるジアセチレンの光架橋反応を行うことで、強固な共有結合性有機ナノチューブが合成可能である。しかしながら本手法の報告例は先行研究の1例と本研究者が令和元年度までに研究した3例のみであり、より多くのナノチューブを合成し評価するには多様性の面で課題が残されていた。これに対し、組み合わせ方次第で指数関数的に合成されるナノチューブの種類が増加するヘテロカップリングによる合成の利用を試みた。具体的には、脱水重縮合によるヘテロカップリングを中心として、ボロン酸とカテコールの組み合わせによるカテコールボラン型とジアミンとジアルデヒドの組み合わせによるシッフ塩基型の2種類のナノチューブの合成を試みた。カテコールボラン型の研究ではモノマー合成の最終段階において副反応が進行し、目的の化合物が得られず重合反応も検討が行えなかったものの、シッフ塩基型では直鎖状ポリマーの合成に成功した。また、その後の反応に行うための金属配位も検討した。さらに、このヘテロカップリングによるHelix-to-Tubeの研究を行う中でジアセチレンの変換を用いない新たなHelix-to-Tube法を考案した。本手法はアントラセンの[4+4]環化付加反応をHelix-to-Tubeの鍵となる架橋反応に用いる。このようにすることでらせん高分子とナノチューブとで機能を劇的に変えられるだけでなく可逆的に両方の分子を利用することもできる。本手法の実現に向けすでにモデル化合物の合成と鍵反応の検討を進めるに至った。これらの結果は、研究計画に対する進捗として十分に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに合成したらせん高分子についてその合成と物性評価などについて論文を近日中に投稿する予定である。また、今回得られたヘテロカップリングによる直鎖高分子のらせん構造形成を行うために、金属配位を主として検討する。さらにらせん構造を形成したのち、光照射による架橋反応についても検討を行い、紫外可視吸収スペクトルや蛍光スペクトル、円偏光二色性スペクトルおよびラマン分光分析を用いて構造同定と物性評価を行う予定である。 これに加えて、当初の研究計画にはなかった新たな形式の可逆型Helix-to-Tube法の開発も行っていく予定である。具体的には、アントラセンの[4+4]環化付加反応をHelix-to-Tubeの鍵とし、アントラセンとケクレン骨格そしてらせん構造の融合を行うことで実現を目指す。そのために、モデル化合物になる拡張ナノヘリセンを合成し架橋反応の検討を行う。また、得られた結果を基礎として、ポリマーへの展開と新手法の実現を行う予定である。 また、当初3年目の研究計画であったHelix-to-Tube法を用いたカーボンナノチューブの精密合成にも着手する予定である。すなわちジエチニルパラフェニレンの等価体とみなせるジエチニルシクロヘキサジエンモノマーを用いたHelix-to-Tube法による共有結合性ONTを合成する。シクロヘキサジエンモノマ ーの置換基Rを種々検討することでアセチレン 部位のなす角を調節し、チューブ直径やらせんピッチ間の距離などを調節し、らせん軸方向におけるジアセチレンの架橋反応を円滑に進行する条件を探る。その 後、シクロヘキサジエン部位の芳香族化と脱水素環化反応を経て、構造が明確に定まったCNTへの変換を試み、ラマン分光分析や透過型電子顕微鏡観察を通して反応の進行を評価する。
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