2020 Fiscal Year Annual Research Report
Construction of theoretical model for 21-cm line observation
Project/Area Number |
19J23680
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
安藤 梨花 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 21-cm線 / 加速膨張 / ハロー / 宇宙の大規模構造 / シミュレーション / 中性水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では将来の21-cm線を用いた大規模構造の観測による宇宙論解析のための理論モデルの検証、構築を目的としている。宇宙の再電離期以降の21-cm線シグナルのゆらぎはほとんど中性水素(HI)の数密度ゆらぎのみから決まる。ただしHIの割合違や数密度ゆらぎはダークマターの重力ポテンシャルだけでなく、星や銀河の形成や放射の影響など様々な天体物理学的影響を受けるため、解析的に計算することが困難である。 そこでN体シミュレーションから得られるダークマターハローにHIを貼り付けるという手法が用いられることがある。従来の手法ではこの際にダークマターハローの質量とそこに含まれるHIの質量の関係を仮定して、ハローの中心にHIを貼り付けるという作業を行なっている。ただし宇宙論的流体シミュレーションの解析から得られる、ハロー質量とHI質量の実際の関係は一対一対応するものではなく分散がとても大きい。そのためハロー質量に関する関数でフィッティングした結果が用いられるが、フィッティングのためのフリーパラメータが3つ必要である。そして、この手法で作成したHIの密度ゆらぎのパワースペクトルは、ハローとHIの質量の関数に強く依存していることに注意が必要である。 そこで我々はN体シミュレーションからHIの空間分布を作成する新たな手法の考案を行なった。この手法では、ハロー周囲のダークマターの密度場のみを取り出して定数倍を行い、それ以外の領域の密度場を0とすることでHIの密度場を再現する手法である。ハローの近傍のみに質量があるとする事で、再電離期以降の高密度領域に多く存在するHIの密度場を再現することが可能となる。この手法ではハロー中心からどの半径までの領域の密度を使用するかを決めるパラメータのみを必要とするため、少ないパラメータでHIのパワースペクトルを再現できるHI密度場を構築することが可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
この手法はハロー近傍の密度をハロー半径の何倍まで用いるかを表すパラメータを必要とするが、このパラメータは中規模の宇宙論的シミュレーションを用いて正しくHIパワースペクトルを再現することができるような半径を探すようにフィッティングを行なった結果を用いている。しかし先行研究によると、宇宙論的シミュレーションにおける星形成ガスの中性率の扱いにはいくつかの計算手法が存在することが発覚した。先行研究によると初めに採用していた方法では、星形成ガスの温度を高く見積りすぎるため、HIの量を過小評価していると示唆していた。我々の解析の結果、どの手法を採用するかによってHIパワースペクトルが大きく異なることがわかった。そこで星形成ガスの2通りの扱いを試し、それぞれの場合の、本研究の結果と従来の方法であるハロー質量とHI質量の関係を用いる手法の再現度の比較を行なった。この工程により当初予定していたよりも多く手法の検証に時間を要した。現在、これらの結果を論文にまとめ、投稿している。 この研究では今後、新しく考案したHIマップの作成方法を、一辺が1Gpc以上のボックスサイズを持つ大規模なN体シミュレーションに適用する。当初は現在までに、この方法で得られたHI密度場から、21-cm線観測における観測量であるパワースペクトルに現れるバリオン音響振動の振動スケールの測定までを完了させる予定であった。 これらを省みた結果、新たな示唆を与えることができたが、当初想定していた解析までには至っていないため、現在までの進捗状況はやや遅れていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究より、ダークマターの密度場からHIの密度場を再構築する手法を開発した。そこで今後は、数Gpcのボックスサイズを持つ大規模N体シミュレーションを使用して、HIの密度場を作成する。そのようにして得られたHIの密度場から、観測量であるパワースペクトルに現れるバリオン音響振動の振動スケールの測定や赤方偏移空間歪みの測定を行う予定である。この結果についてもすぐに論文にまとめる予定である。 さらに先行研究から、新たな初期条件の生成方法を採用することで有限なボックスサイズであることに起因する大スケール側の大きな分散を抑える手法が考案されている。そこで現在、この手法を宇宙論的流体シミュレーションに適用することに取り組んでいる。従来、この誤差を抑えるために多くの回数のシミュレーションの実行を要していたが、この方法では2回に抑えることが可能となる。そのため、今後この手法を用いて500Mpc程度の大規模な宇宙論的流体シミュレーションを実行し、21-cm線の観測量の測定を行うことも予定している。
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