2019 Fiscal Year Annual Research Report
白色腐朽菌の代謝切り替えスイッチとしての水分活性センシング機構の解明
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19J23714
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
元田 多一 宮崎大学, 農学工学総合研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 白色腐朽菌 / 脱リグニン / 多糖分解 / 代謝変化 / 浸透圧応答遺伝子 / HOG1 / アクアポリン |
Outline of Annual Research Achievements |
白色腐朽菌Phlebia sp. MG-60株は含水率の低い固相条件下では選択的な脱リグニンを行うが、液体培地を加えて含水率を高めると糖質の分解と代謝を盛んに行う。この事から腐朽材の水分活性が白色腐朽菌におけるリグニン分解と多糖分解の代謝切り替え因子として働いているという仮説を立て、白色腐朽菌における水分活性センシング機構に注目し、細胞の浸透圧応答に関係がある膜タンパク質のアクアポリンおよびMAPキナーゼのHOG1に着目した。 HOG1遺伝子(MGhog1)に関しては、RNAiコンストラクトを作製し、プロトプラスト-PEG法を用いて形質転換を行い、54株の形質転換株を取得し、その内41株の形質転換株でRNAiの導入が確認された。一方で、液体培養条件下の野生株にNaClを添加するとMGhog1の発現量が増加する事が示された。しかし、NaCl添加液体培養条件下において、野生株と比較してMGhog1の発現量が有意に抑制されているMGhog1-RNAi導入株は確認されなかった。 アクアポリン遺伝子もHOG1遺伝子と同様に、プロトプラスト-PEG法を用いて形質転換を行い、73株の形質転換株を取得し、その内19株の形質転換株でRNAiの導入が確認された。19株の内8株のMGaqp3_1-RNAi導入株においてMGaqp3_1の発現量が強く抑制されていた。3株のMGaqp3_1-RNAi導入株は、高窒素合成液体培地(Kirk-HN培地)において、リグニン分解関連酵素であるペルオキシダーゼ活性の値が、野生株と比較して有意に高い事が確認された。この結果から白色腐朽菌のリグニン分解関連酵素生産抑制因子のスイッチとしての窒素センシング機構にアクアポリンが関係している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
HOG1遺伝子(MGhog1)に関しては、プロトプラスト-PEG法を用いて形質転換を行い、41株のRNAi導入株が得られたが、野生株と比較して有意にMGhog1の発現量が抑制されているMGhog1-RNAi導入株は確認されなかった。この原因として、MGhog1の発現量が強く抑制されている株は生長が著しく悪く、プロトプラスト-PEG法におけるプロトプラストからの再生率が低い事が考えられた。 アクアポリン遺伝子に関しては、3株のMGaqp3_1-RNAi導入株が、高窒素合成液体培地(Kirk-HN培地)において、リグニン分解関連酵素であるペルオキシダーゼ活性の値が、野生株と比較して有意に高い事から、白色腐朽菌のリグニン分解関連酵素生産抑制因子のスイッチとしての窒素センシング機構にアクアポリンが関係している可能性が示唆されたが、MGaqp3_1-RNAi導入株においてKirk-HN培地中のペルオキシダーゼ活性値とMGaqp3_1の発現量との間に相関性は見られなかった。その為、上記の可能性を支持するには、MGaqp3_1-RNAi導入株のさらなるMGaqp3_1の発現解析、およびリグニン分解関連酵素生産に焦点を当てた表現型解析を行っていく必要があると考えられる。 白色腐朽菌におけるHOG1遺伝子およびアクアポリン遺伝子の研究報告はほとんどない。その為、それらの遺伝子を抑制した形質転換株の表現型が正確に予測できない為、形質転換を行うと同時に、表現型解析の評価系の構築も行っていく必要がある。本来の計画より多少遅れた進捗状況ではあるが、後学の糧となる結果も得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
HOG1遺伝子(MGhog1)に関しては、MGhog1発現抑制株に加えてMGhog1発現誘導株の表現型の評価も行っていく。現在、MGhog1発現誘導コンストラクトの取得まで至っており、再度、プロトプラスト-PEG法を用いた形質転換を行い、MGhog1発現抑制株およびMGhog1発現誘導株を作製していく。MGhog1の発現が強く抑制されている株はプロトプラストからの再生能が低いと考えられたで、前回の形質転換時より長期間にわたってプロトプラスト再生株をピックアップしていく予定である。 アクアポリン遺伝子に関しては、MGaqp3_1-RNAi導入株におけるKirk-HN培地中のペルオキシダーゼ活性値とMGaqp3_1の発現量と間に明確な相関関係は見られなかったが、腐朽菌のリグニン分解関連酵素生産抑制因子のスイッチとしての窒素センシング機構にアクアポリンが関係している可能性が示唆された。上記の可能性を支持する為に、MGaqp3_1-RNAi導入株のさらなるMGaqp3_1の発現解析、およびリグニン分解関連酵素生産に焦点を当てた表現型解析を行っていく必要があると考えられる。さらに、白色腐朽菌の代謝切り替えスイッチとしての水分活性センシング機構を解明する為にアクアポリンに注目する上で、すべてのアクアポリンアイソザイムに関して評価していく必要があると考え、Phlebia sp. MG-60株に近縁な白色腐朽菌であり全ゲノム情報が公開されているPhlebia brevisporaに注目し、先の研究と同様に逆遺伝学的手法を用いて、代謝切り替えスイッチとしてのアクアポリンの役割について評価していく。
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Research Products
(1 results)