2020 Fiscal Year Annual Research Report
白色腐朽菌の代謝切り替えスイッチとしての水分活性センシング機構の解明
Project/Area Number |
19J23714
|
Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
元田 多一 宮崎大学, 宮崎大学大学院 農学工学総合研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
|
Keywords | 白色腐朽菌 / 浸透圧応答遺伝子 / HOG1 / アクアポリン / 代謝変化 / リグニン分解 / 多糖分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
HOG1遺伝子に関しては、低窒素合成液体培地で7日間培養したPhlebia sp. MG-60-P2株にNaClを添加した所、添加後12時間後にPhlebia sp. MG-60-P2株のHOG1遺伝子(MGhog1)の発現量は有意に増加した。MGhog1-RNAiコンストラクトおよびMGhog1恒常発現コンストラクトを作製し、プロトプラスト-PEG法を用いて形質転換を行い、27株のMGhog1ノックダウン株および8株のMGhog1恒常発現株を取得した。野生株、Mockおよび各形質転換株をPDA培地およびNaCl添加PDA培地で培養し、菌糸生長速度を測定したところ、野生株およびMockと比較してMGhog1ノックダウン株は、PDA培地およびNaCl添加PDA培地上において、生長が抑制される傾向が見られ、MGhog1恒常発現株は、PDA培地上では同等の生長速度を示したが、NaCl添加PDA培地上においては生長が著しく抑制されていた。PDA培地およびNaCl添加PDA培地において生長が著しく抑制されていた2種類のノックダウン株(KD65株およびKD78株)は、野生株およびMockと比べて、Kirk-LN培地中の全フェノールオキシダーゼ活性の値が著しく低い事が明らかになった。これらの結果より、MGhog1の過度な発現誘導は塩ストレス条件下において菌糸の生長に不利に働き、MGhog1の発現抑制は固相条件下および塩ストレス条件下において菌糸の生長に不利に働く事が示唆された。 アクアポリン遺伝子に関しては、Phlebia sp. MG-60株に近縁で全ゲノム情報が公開されているPhlebia brevisporaに注目した。当研究室で保管しているPhlebia brevispora HHB7024 sp.株由来の5種類のアクアポリン遺伝子配列を取得した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
HOG1遺伝子に関しては、27株のMGhog1ノックダウン株および8株のMGhog1恒常発現株が得られた。MGhog1ノックダウン株はPDA培地およびNaCl添加PDA培地において生長が抑制される傾向が見られ、MGhog1恒常発現株はNaCl添加PDA培地において生長が著しく抑制される傾向が見られた。一方で、27株のMGhog1ノックダウン株の内、PDA培地およびNaCl添加PDA培地において、野生株およびMockと同等の生長速度を示した3株 (KD53, KD68 and KD71)、著しく生長が抑制されていた3株 (KD44, KD65 and KD78)、計6株のMGhog1の発現量を調べたところ、いずれのMGhog1-RNAi導入株も塩添加12時間後および24時間後において、MGhog1の発現誘導は見られず、遺伝子発現量は野生株の1/5程度であった。これらの結果から、MGhog1の発現抑制強度と菌糸生長速度との間に相関関係は見られず、遺伝子発現量のみではノックダウン株の評価およびスクリーニングは難しいと考えられた。その為、現在に至るまで供試菌の選抜が進まず、得られた全てのノックダウン株を用いて、表現型の傾向を調べてきた。このような理由から、予定よりやや遅れた進捗状況となっている。 アクアポリン遺伝子に関しては、Phlebia sp. MG-60株のゲノムが明らかになっていない為、本菌の全てのアクアポリン遺伝子をクローニングする事が困難である。この事から、Phlebia sp. MG-60株に近縁で全ゲノム情報が公開されているPhlebia brevisporaに注目し、供試菌を変更した為、予定よりやや遅れた進捗状況となっているが、当研究室で保管しているPhlebia brevispora HHB7024 sp.株の5種類のアクアポリン遺伝子配列の取得までは至っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
HOG1遺伝子に関しては、MGhog1の過度な発現誘導は塩ストレス条件下において菌糸の生長に不利に働き、MGhog1の発現抑制は固相条件下および塩ストレス条件下において菌糸の生長に不利に働く事が明らかになった。今後は、液体培養条件におけるMGhog1ノックダウン株およびMGhog1恒常発現株の表現型を調べていく。MGhog1ノックダウン株およびMGhog1恒常発現株の菌糸生長と野生株の菌糸生長を比較すると共に、液体培養条件における本菌の菌糸生長と関係が深いエタノール発酵能にも注目し、MGhog1の発現抑制または発現誘導が本菌の代謝系にどのように作用し、菌糸体の生育に干渉しているのかを明らかにしていく。 アクアポリン遺伝子に関しては、Phlebia sp. MG-60株に近縁な白色腐朽菌であり全ゲノム情報が公開されているPhlebia brevisporaに注目した。当研究室で保管しているPhlebia brevispora HHB7024 sp.株を供試菌とし、5種類のアクアポリンの遺伝子配列を取得し、それぞれの遺伝子配列からリアルタイムPCR用のプライマーを設計した。現在、Phlebia brevispora HHB7024 sp.株を用いた木材腐朽試験を行っている。今後、木材腐朽試験後のサンプルを回収し、腐朽材の重量減少率、リグニン含有率およびPhlebia brevispora HHB7024 sp.株由来の各アクアポリン遺伝子の発現量を調べる。木材腐朽中に特徴的に発現しているアクアポリン遺伝子が存在した場合、そのアクアポリンのアミノ酸配列から属するクラスターおよび機能を推測し、同アクアポリンの白色腐朽菌における生理的機能を探索していく。
|