2019 Fiscal Year Annual Research Report
歯の微細摂食痕の三次元解析から探る、哺乳類特有の咀嚼運動の起源と進化
Project/Area Number |
19J40003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保 泰 東京大学, 総合研究博物館, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | マイクロウェア / 三畳紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではマイクロウェア(歯に残る摂食時の微細な痕)の三次元的解析により哺乳類等の食性進化を解明する事を目指している。二ホンジカや二ホンカモシカ、あるいは二ホンイノシシを用いた研究により、マイクロウェアの深さが摂食物中のイネ科の割合と相関する事が明確となり、その成果は複数の国際学会で発表した。 三畳紀に生息した海生爬虫類の板歯類のマイクロウェアの研究も進め、現生サメやジュゴンのマイクロウェアとの比較を行った。板歯類の歯の凹凸は歯が平らなジュゴンや砂地で暮らすサメと、歯がでこぼこしている岩礁で暮らすサメ等のちょうど中間に位置する事が明らかとなった。この成果も国際学会で発表したが、板歯類が中間的な位置を占めるのが生息地の影響なのか食性の影響なのかが判然とせず、比較のための追加の四足動物の分析が必要である。 同時に恐竜のマイクロウェアの研究も進めており、中国や国内それぞれ複数の研究機関で歯型の採取を行った。また三畳紀の初期の恐竜のマイクロウェアの分析も進めた。三畳紀の恐竜は、一部の肉食性のもので線状の傷が確認されたが、総じて保存が悪く、歯の概形から推定される食性とマイクロウェアの関連性を明らかにするには至らなかった。 また共同研究として現生ワニの研究を進めている。種によって肢骨の形成パターンに違いがあるかについて検討し、これまで種間であまり差が無いと考えられていた肢骨の相対成長には種間で違いがある事。ガビアルの仲間が特異な成長様式を示すこと。前肢と後肢の成長パターンの比較だけからは成長と共に二足歩行から四足歩行へあるいは四足歩行から二足歩行への変化があるかを明言できない事などを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現生哺乳類についてはシカやカモシカの研究を進め、イネ科を摂食する種では食物中のイネ科の割合とマイクロウェアに関連がある事を明らかにできた。しかし、三畳紀の生物のマイクロウェアについては保存が悪いものが多く、マイクロウェアのスキャンと分析までは行ったものの、三畳紀の恐竜については学会発表ができるような結果が得られず、板歯類については国際学会で発表はしたものの論文の執筆に足ると判断できる結果は得られなかった。 また、絶滅種のマイクロウェアを検討する中で、咬合力とマイクロウェアに関連がある可能性が出てきた。咬合力がマイクロウェアに関係するならば、食性推定の上ではノイズとなる可能性がある。そのため、まずは咬合力とマイクロウェアの関連税の有無について調べる必要が生じた。幸い咬合力を調べるための哺乳類標本は私が所属する東京大学総合研究博物館に多数あり、これから研究を進めて行く予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
植物食恐竜の分析を進めるなかで咬合力とマイクロウェアに関係が有る可能性が生じた。咬合力とマイクロウェアに関連があれば、マイクロウェアが咬合力の推定の為のツールになる可能性がある一方で、マイクロウェアから食性を推定する上ではノイズとなる。そこで、まずは咬合力とマイクロウェアとの関係性の詳細を調べる必要がある。 相対的な咬合力は歯の位置と顎関節および顎を動かす筋の位置関係を用いて推定する事ができる。現生の哺乳類の頭骨で各歯の咬合力を推定した上で、それらの歯からマイクロウェアを採取して分析し、想定される咬合力とマイクロウェアの表面性状を表す工学的指標に相関があるのかを調べたい。過去の研究ではマイクロウェアを二次元的に調べた研究でナマケモノでは線状の傷の幅が咬合力と関係する可能性が示唆されている。一方で三次元的にマイクロウェアを調べた研究で、オオカミ、コヨーテ、タスマニアデビルにおいて咬合力とマイクロウェアの関連を否定する研究が発表されている。まずは、これらの先行研究で用いられた哺乳類種を用いた研究を行い、先行研究の検証を行う予定である。 私が所属する東京大学総合研究博物館には多数の哺乳類の骨格標本があるため、それらを活用していきたいと考えている。 一方で新型コロナの流行もあり、海外への出張が可能になるかは予断を許さない状況である。本研究で調べる予定であった化石哺乳類は全て海外の研究機関が保有するものであり、状況次第では研究計画全般にわたる見直しが必要となるかもしれない。
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