2020 Fiscal Year Annual Research Report
動物の低温馴化における新規全身型サーキュラー神経回路の光遺伝学解析
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19J40017
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
太田 茜 甲南大学, 理工学部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2019-07-01 – 2023-03-31
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Keywords | 線虫 / C. elegans / 温度記憶 / 神経回路機構 / 温度応答 / 低温耐性 / 温度順化 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物は環境情報を神経系で記憶し、その記憶に応じて適切に環境に応答や適応することができる。記憶のしくみには未知な部分が多く、その解明は現在の生命科学における大きな課題である。本研究では、動物の脳神経のしくみと記憶のメカニズムの解明を目指し、その解析モデルとして、線虫C. elegansの温度記憶の実験系をもちいて解析している。 具体的には、線虫C. elegansの低温耐性・温度順化現象を指標として、温度応答と記憶の神経回路機構の解明を目指して解析を進めている。低温耐性とは、25℃飼育個体は2℃で死滅するが、15℃飼育個体は2℃でも生存できる現象である。興味深いことに、25℃飼育個体を、3時間15℃に移動させることで2℃で生存できる温度順化が見つかっている(Ohta et al., Nature commun., 2014)。つまり、体内の何らかの温度記憶が、わずか3時間で置き換わると考えられる。しかし、この温度記憶がどのような組織で制御されているかは未知であった。本研究ではこれまでの準備解析から見つかってきた、ホ乳類から線虫まで記憶に関わることが知られている転写因子に異常を持つ変異体が、野生株に比べ新しい温度への順化に時間がかかる現象をもとに、この現象に関わる神経回路の生理的機構を解き明かすために、光遺伝学的をもちいて解析を行っている。新温度への適応スピードに関わる機能細胞として、頭部の温度受容ニューロンと介在ニューロンと、その下流の尾部にある介在ニューロンを含む神経回路が見つかってきた。さらに、それらの温度受容ニューロン内における温度受容体も見つかってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍による緊急事態宣言により、4月から6月下旬まで大学への立ち入りができなかったため、その期間の実験をおこなうことができなかったため、予定していた神経回路活動の測定の一部を行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに同定した温度馴化に関わる神経回路上で機能する神経伝達物質の同定をすすめる。温度馴化に関わる神経回路上で発現している複数のニューロペプチド遺伝子について温度順化への関与を詳細に解析する。ノックアウト変異体を使う事に加えて、細胞特異的なRNAiを行うことも計画している。さらに、温度受容ニューロンとその下流の介在ニューロンの情報伝達に関わる可能性が示唆されたギャップ結合構成タンパク質イネキシン(INX)の変異体を用いて、温度馴化テストを行ない、複数のINX遺伝子と温度馴化との関係も詳細に調べる。それらの結果をふまえて、温度馴化に関わる感覚および介在ニューロンで発現しているINX遺伝子について、細胞特異的レスキュー実験または細胞特異的RNAiをおこなうことで、温度馴化におけるINXの機能細胞を同定していく予定である。また、線虫が飼育温度依存的に低温(2℃)で生存できたり死滅したりするため、なぜ低温(2℃)48時間程度で死に至るのかについての解析も進める。
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