2020 Fiscal Year Annual Research Report
組織適合性と抗菌性を兼ね揃えた医療用金属材料表面の創製
Project/Area Number |
19J40065
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
堤 晴美 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 生体機能化 / チタン / マイクロアーク陽極酸化 / 銀 / 亜鉛 / ICP-MS / EDS / SEM |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、マイクロアーク陽極酸化(MAO)処理を用いた医療用金属材料の抗菌性と硬組織適合性の同時実現を目指す。これまでに2段階MAO処理を提案することで、既存のMAO処理による抗菌性付与技術よりも長期的に抗菌性を有する多孔質な材料表面の創出に成功しており、本年度はさらなる2段階MAO処理条件の最適化を行った。 通常、抗菌性が認められているAgやZnを微量添加してMAO処理する際、Agでは5mM以上、Znでは2mM以上の添加濃度では電圧が上昇せずMAO処理を材料表面に作製することができない。しかし2段階MAO処理を用いることで、予め一定の膜厚を有する酸化皮膜を試料表面に形成させると試料表面の皮膜抵抗が上昇し、Agでは5-10mM、Znでは0-5mM添加した溶液でのMAO処理が可能になった。また、AgよびZnを同時導入した試料も作成することができ、EDS測定結果より、いずれの試料もAg添加濃度に依存したAgが多孔質皮膜中に導入されることが明らかになった、試料を疑似体液に未浸漬、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、6ヶ月浸漬後、浸漬した溶液のイオン溶出量をICP-MSで測定したところ、浸漬初期にAgイオンが溶液中に多量に放出されるものの、浸漬時間が長くなるにつれてイオン溶出量は減少することが明らかになった。このとき、同試料で抗菌性試験を行うと、Ag導入試料では浸漬時間の増加に伴い(Agイオンの放出量の低下に伴い)抗菌性は低下した。一方、Zn、Ag導入試料では、Agイオンの放出量が低下しても、抗菌性は一度は低下するものの、その後、抗菌性が改善された。これは初期のAgイオンの放出による抗菌性の発現に加えて、Znの腐食生成物形成による遅延性に抗菌性が発現したことによるものと考えられ、複数の抗菌性のメカニズムを発現させることによって、長期的な抗菌性を試料に付与できる技術を開発できたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は2段階MAO処理技術を用いた医療用金属材料への抗菌性付与における処理条件の最適化と位置づけた。基材としてTi、抗菌物質としてAgおよびZnを選択し、Ti表面にAg単体あるいはAgおよびZnを微量含有させる多孔質皮膜を形成し、表面分析および疑似体液浸漬時の多孔質皮膜からの抗菌物質の放出およびその際の抗菌性の評価を6ケ月間の経時変化で追った。その結果、Ag単体導入試料では疑似体液浸漬時間の増加に伴って、Agイオンの放出が減少していき、浸漬後約3ヶ月後に抗菌性は低下していた。一方、AgおよびZn同時導入試料では、疑似体液浸漬時間の増加に伴ってAgイオンの溶出量は低下していくものの、抗菌性は3ヶ月で一度やや低下した後に6ヶ月には再び抗菌性が改善されている。これは、Ag単体導入試料がAgイオンの放出による抗菌性発現のメカニズムであるのに対し、AgおよびZn同時導入試料では、Agイオン放出による抗菌性発現のメカニズムに加えて、Znが試料表面に腐食生成物を形成することによる遅延性の抗菌性発現のメカズムの両者の抗菌性メカニズムを有するためであることが明らかになった。2段階MAO処理による2元素同時導入が元素単体導入より長期の抗菌性を付与することが有効であることの報告はこれまでになく、現在論文を執筆中である。 現在、さらなる抗菌性の高い試料表面設計のために、AgおよびZnの2段階MAO処理の順序の検討、また、これまでに不可能だった高濃度のZnの導入が可能になったことから、Znの導入量を変化させて作成した試料の表面解析、イオン放出量および抗菌性の評価を進めている。さらに本研究の目的である抗菌性を示しつつ、細胞毒性を示さない多孔質酸化皮膜へのAgおよびZn導入量を決定するため、細胞を用いた評価法について技術の習得をおこなっている。 上記の理由により研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究3年目は、1、2年目での機器分析および細菌による評価を引き続き継続し、また細胞の毒性評価を行う。抗菌性が長期的に保持できることが判明したため、特に2段階MAO処理を用いたAgおよびZn同時導入試料に着目し、AgおよびZnを用いた抗菌性を有する表面設計について精査する。MAO処理により導入した抗菌物質が、生体内に埋入後、狙いの濃度範囲で長期間にわたり安定して放出継続するためには、多孔質皮膜層がこれに適した立体構造や緻密性、抗菌物質の担持量の条件を満たしていることが要求される。このため、AgおよびZn同時導入試料が、現在解明中の抗菌性発現の濃度範囲内に収まるよう、放出量を制御できるような多孔質酸化皮膜の形成を行う。抗菌性の試験については、これまでの大腸菌を用いた評価だけでなく、黄色ブドウ球菌などより強い抗菌性が求められる菌においても抗菌性試験を広げていく。これまでは、濃度の導入上限の限界から皮膜中に取り込むことができなかった高濃度のZn導入試料が2段階MAO処理技術を用いることによって作成可能になった。この高濃度のZn導入試料は、初期の抗菌性発現を示すことを確認しており、これはZnは遅延性の抗菌性発現をするというこれまでの報告に加えて新しい発見となる。学問的見地からも非常に興味深い結果であり、皮膜の構造解析やイオン放出を精査することで、高濃度のZn導入試料の初期の抗菌性発現にメカニズムについて解明を行っていく。 現在、新型コロナウィルスによる感染拡大防止のための緊急措置により研究活動が制限されている。状況に応じて研究方策を柔軟に変更しており、研究活動が完全に停止しないように配慮し、論文執筆などに効率的に時間をあてていきたいと考えている。
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