2020 Fiscal Year Annual Research Report
Zic転写因子のもつ2種の結合モチーフの転写調節における役割
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19J40136
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小田(石井) いずみ 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 転写因子 / ホヤ / Zic |
Outline of Annual Research Achievements |
転写因子による特定のDNA塩基配列(結合モチーフ)への特異的な結合は、細胞がゲノム情報を読み解く最初のステップであり、多くの生物学的プロセスの基盤である。これまで一つの転写因子は結合するDNAモチーフを一つもつと考えられてきたが、近年、多くの転写因子が従来決定された結合モチーフ(primaryモチーフ)とは大きく異なるsecondaryモチーフにも高い親和性で結合することがわかってきた。しかし、生体内におけるこれらの使い分けについてはよくわかっていない。本研究は、ホヤZic因子の転写調節機構を解析することで、多くの転写因子がもつ複数の結合モチーフの使い分けの生物学的意義を明らかにすることを本研究の目的としている。 前年度までに申請者は、Zic-r.aが母性に発現する筋肉系譜細胞で、標的遺伝子の転写をシス調節領域内のsecondaryモチーフへの結合を介して調節していることを明らかにした。これに対し、Zic-r.aが胚性に発現する神経系細胞でのZic-r.aの標的遺伝子の候補をスクリーニングし、その調節領域にZic-r.aが結合するprimaryモチーフが存在することを確認した。本年度は、これらの標的遺伝子の候補が実際にZic-r.aによる転写調節を受けていることを示すために、TALENを用いてZic-r.a変異胚を作成し、これらの胚で候補遺伝子の転写が低下していることを確認した。また、Zic-r.aがprimaryまたはsecondaryモチーフを認識して結合する際に、Zic-r.aがもつ5つのジンクフィンガードメインのうちのどれが必要かを調べることで、Zic-r.aが結合する際に必要なジンクフィンガードメインがprimaryとsecondaryの間で異なることを示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに、Zic-r.aがprimaryモチーフを介して転写調節を行う標的遺伝子の候補として、Zic-r.aが胚性に発現する幼生の神経系細胞で発現するClaudinおよびKY.Chr7.686を同定した。本年度は、これらの遺伝子が実際にZic-r.aの標的遺伝子であることを示すために、Zic-r.a機能阻害胚での解析を行った。これまでZic-r.aの機能阻害には、モルフォリノオリゴによるmRNAの翻訳阻害を用いてきた。しかしこの方法では、初期発生に重要な役割をもつZic-r.a母性mRNAのはたらきも阻害してしまうことから、TALEN法を用いて胚性Zic-r.a機能阻害胚を作成した。ClaudinおよびKY.Chr7.686の発現をRT-qPCR法により比較したところ、野生型に比べてZic-r.a機能阻害胚で有意に発現の減少が検出された。この結果から、Zic-r.aが神経系細胞で発現する標的遺伝子の転写をprimaryモチーフを介して調節していることが示された。 次に、primaryまたはsecondaryモチーフの認識にZic-r.aの5つのジンクフィンガードメインのうちのどのドメインが必要かを調べた。各ドメインのDNA認識に必要な2つのアミノ酸に変異を挿入したZic-r.a mRNAと各モチーフを含むレポーターコンストラクトを同時に胚に導入したところ、primaryまたはsecondaryモチーフを介した調節には、それぞれ1番目と3番目のドメインが必要であることが示された。これは、primaryモチーフとsecondaryモチーフが一つの結合モチーフの派生型ではなく、別々のドメインにより認識される独立した結合モチーフであることを示す結果である。 ここまでの内容で論文を作成し、4月中に受理された。したがって、研究は順調に進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のこれまでの結果から、Zic-r.aが母性に発現する筋肉系譜細胞ではsecondaryモチーフへの結合を介して標的遺伝子(Tbx6-r.b)の転写調節を行っていることが示された。これに対し、胚性Zic-r.aを発現する幼生の神経系細胞では、primaryモチーフを介して標的遺伝子(Claudin, KY.Chr7.686)の調節を行っていることを示唆する結果を得た。ここまでの結果を一つの論文にまとめて投稿し、受理された。 しかし、このような2種類のモチーフの使い分けが、どのようにして行われているのかについてはまだ明らかにできていない。したがって本年度は、この点を明らかにすることを目的として研究をさらに進める予定である。 研究は以下のように進める。 ① 神経系細胞のゲノム上でのどこにZic-r.aが結合しているかを明らかにするために、BrainおよびPan-neuralマーカーを特異的に発現する胚を作成できる実験系を用いてZic-r.aのChIP解析を行う。② これまでの解析により、primaryモチーフはsecondaryモチーフより高い親和性でZic-r.aに結合することが示されたことから、細胞内のZic-r.aの濃度が低い場合、primaryモチーフを介した調節は可能でも、secondaryモチーフを介した調節は行われない可能性が考えられる。したがって、secondaryモチーフが使われており、母性Zic-r.aが発現する筋肉系譜細胞とprimaryモチーフが使われており、胚性Zic-r.aが発現する神経系細胞の間で、細胞内のZic-r.a濃度に違いがあるか調べる。 今後は、この使い分けが起こる分子的基盤をできる限り明らかにし、次の論文発表につなげる予定である。
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