2020 Fiscal Year Annual Research Report
脳機能・脳内エネルギー代謝を制御する食事由来脂質のクオリティに関する研究
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19J40268
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Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
中島 進吾 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 疾病研究第三部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 脂肪酸 / 高脂肪食 / 脂肪滴 / ドーパミンニューロン / GPR120 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、食事由来の脂質分子の性質が脳機能・脳内エネルギーに及ぼす影響について種々の初代培養神経細胞や動物モデルを用いて明らかにする。前年度までに、飽和脂肪酸を多く含む脂質の過剰摂取により不安行動が惹起されることが明らかとなり、その原因の一つとして脳内へn-3系多価不飽和脂肪酸を輸送する脂質形態(リゾホスファチジルコリン)の減少が考えられた。 本年度は、その分子機構を探るためにn-3系多価不飽和脂肪酸の受容体であるG-protein coupled receptor (GPR)120 に着目し、脳内の多価不飽和脂肪酸レベルの低下による不安行動への影響を検証した。C57/BL6マウスに、n-3系多価不飽和脂肪酸普通食及び欠損食を8週間摂取させ、欠損食群においてはGPR120アゴニストを脳室内へ慢性投与(浸透圧ポンプ)し、行動試験を行った。予想に反して食事条件により不安行動は観察されず、GPR120アゴニストの効果も見られなかった。一方で、GPR120アゴニストの慢性投与により社会性行動が上昇する可能性が示唆された。これらのことから、多価不飽和脂肪酸低下による不安行動への影響は、飽和脂肪酸を過剰摂取した際の炎症反応などの悪影響に関連することが考えられた。 情動や報酬系の制御に関わるドーパミンニューロンにおける多価不飽和脂肪酸の影響を調べるため、ドーパミンニューロン特異的なGFPマウスを用いて、初代培養系を確立し多価不飽和脂肪酸シグナル系の影響を検証した。GFP陽性ニューロンにおけるGPR120アゴニスト刺激後の細胞内カルシウム動態を調べたところ、ベルシェイプ型作用濃度で細胞内カルシウムレベルを上昇させることが明らかとなった。 本年度は、新型コロナウイルスの影響により3ヶ月ほど実験を遂行できない期間があった。しかしながら、安定した実験系や研究の方向性が確立されつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、脳外科手術を伴った動物試験を実施すると共に、GFPマウスの中脳から神経細胞を安定して培養する初代培養系を確立した。 n-3系多価不飽和脂肪酸欠損食及びGPR120アゴニストの投与では、予想した結果は得られなかったが、炎症反応など他の肥満に関わる因子との関連が示唆され、今後の方向性が見出された。 初代培養系においては、GPR120の活性化が、ドーパミンニューロンの活動を促進することが示唆され、ドーパミンニューロンのサブタイプを検証すると共に、ドーパミン放出や神経突起形成などニューロンの機能解析につながる重要な知見が得られた。 本年度は、新型コロナウイルスの影響によるロックダウンや研究所内の規制で3ヶ月ほど実験を遂行できない期間があったが、今後につながるデータが少しづつ集まってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
n-3系多価不飽和脂肪酸の欠損だけでは不安行動が惹起されなかったことから、飽和脂肪酸過剰摂取に伴う不安行動の惹起には、n-3系多価不飽和脂肪酸の血中レベルの低下に加えて、飽和脂肪酸による悪影響が関与することが考えられた。 飽和脂肪酸の摂取によって脳内、特に側坐核における炎症反応が惹起されることが示されており。この脳領域での炎症反応が不安行動と関連することが明らかとなっている。脳内での炎症反応に関わることから、今後はミクログリア におけるGPR120活性化を検討していく。これまでに、初代培養ミクログリアにおいて、GPR120アゴニストがリポ多糖誘導性の炎症応答を緩和することを見出しており、こういったミクログリアにおける炎症抑制作用・メカニズムを解析することに加え、今後は、側坐核におけるニューロンとミクログリアの相互作用に着目し、脂質摂取と脳内における炎症反応の観点から研究を進めることを予定している。 また、GPR120アゴニストがドーパミンニューロンの活動を促進する現象については、さらにドーパミンニューロンのサブタイプ(グルタミン酸、GABA共発現ニューロン)を検証すると共に、ドーパミン放出や神経突起形成などニューロンの機能的な面への影響を解析する。また、こういったドーパミン産生ニューロンにおけるGPR120の作用が情動や報酬行動に及ぼすかどうかを、中脳へのGPR120アゴニスト投与や各種行動試験により動物レベルで検証を行う。
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