2019 Fiscal Year Annual Research Report
細胞競合を利用した新規がん診断法および予防法の開発
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19J40277
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
伊藤 祥子 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 細胞競合 / バイオマーカー / ファージディスプレイ抗体 |
Outline of Annual Research Achievements |
正常な上皮細胞層にがん遺伝子に変異をもつ上皮細胞が混在すると、細胞間で競合が起き、がん遺伝子に変異をもつ上皮細胞は敗者となり、上皮層から排除される。この状況は、がんが発生する初期の過程と似ているため、細胞競合は初期がん発生のモデルとして研究されている。本研究では、この細胞競合を利用して、初期がんの新規診断法および治療法を開発することを目的としている。今年度は、ファージディスプレイ抗体ライブラリーを使い、変異Rasを発現させたMDCK細胞の細胞表層に特異的に局在する分子のスクリーニングを行った。ファージディスプレイ抗体ライブラリーは、ファージが自身の表層に任意のペプチドを提示するという性質を使用した人工的な抗体ライブラリーである。約400億パターンの配列の抗体を合成することができ、原理的には全てのタンパクに対する抗体を含んでいる。このファージディスプレイ抗体ライブラリーを、正常細胞だけの培養に反応させ、結合するファージ抗体を除去する。残りのファージ抗体を正常細胞とRas変異細胞との混合培養に反応させ、今度は結合したファージ抗体を回収する。このようにして回収されたファージ抗体には、Rasに変異が生じることにより変化した分子を認識する抗体、あるいは正常細胞とRas変異細胞を混合することにより変化した分子を認識する抗体が含まれているはずである。今回、このようなスクリーニングにより、正常なMDCK細胞と比較し、Ras変異MDCK細胞で著しく発現が上昇する膜貫通型タンパクの一つを同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画で示した通り、ファージディスプレイ抗体ライブラリーを使ったスクリーニングによって、Ras変異MDCK細胞の細胞膜に特異的に局在する膜タンパクを年度内に同定することができた。ただ、ファージディスプレイ抗体を使ったスクリーニングでは、まず、Ras変異MDCK細胞を特異的に標識する「抗体」が得られる。標的分子を同定するために、その抗体を使い免疫沈降を行い、得られたサンプルから質量分析を行う必要があった。この質量分析による同定に、想定よりも時間が掛かったが、おおむね計画通りに進展したと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に同定された膜タンパクについて、Ras変異MDCK細胞でノックアウトを行い、細胞競合に関わっているかを調べる。該当の膜タンパクが細胞競合に関わっていることが確認できたら、どのような分子機構によって、細胞競合を制御しているのかを解析する。また、腸管、乳腺、膵臓、肺などの上皮層において、Ras変異細胞をモザイク上に発現させ、Ras変異細胞の排除が起きることが確認されている細胞競合モデルマウスを使い、生体内でもこの膜タンパクがRas変異細胞の細胞膜へ強い局在が起きるかを確認する。
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