2020 Fiscal Year Annual Research Report
3項間漸化式に基づく高速・高精度な電子状態動力学シミュレーション手法の開発と応用
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19J40290
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
赤間 知子 北海道大学, 大学院理学研究院, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2019-04-25 – 2022-03-31
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Keywords | 3項間漸化式 / 虚時間発展 / 希土類錯体 / LMCT励起状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、分子系の超高速電子・スピンダイナミクスを記述するために、3項間漸化式に基づく高速で高精度な電子状態ダイナミクスの非経験的理論計算手法を開発し、希土類分子における超高速電子・スピンダイナミクスのメカニズム解明に取り組むことを目的としている。第二年度である今年度は、昨年度から継続して、理論計算手法の開発と、希土類分子や希土類錯体についての理論的研究を行った。 理論計算手法の開発としては、3項間漸化式法による高精度な電子状態計算の効率化を実現するために、今年度はまず、時間依存Hartree-Fock方程式の3項間漸化式法による虚時間発展の実装を実装したプログラムを用いて数値検証を行った。さらに、より高精度な電子状態計算に対する式を導出し同様の形式で記述できることを明らかにした。 また、希土類であるセリウム(Ce)を含む分子や、ユーロピウム(Eu)やテルビウム(Tb)を含む錯体に関する理論的研究も行った。特に、7配位と8配位の両方の錯体が安定構造として存在する、ピリジンとトリフェニルホスフィンオキシドを配位子に持つEu錯体の計算を中心に行った。この錯体では、配位子から中心金属への電荷移動(LMCT)した状態が比較的安定な励起状態として存在し、発光効率に影響している可能性がある。本研究では、従来の発光・緩和過程に関わる状態に加え、LMCT状態についても検討を行った。各状態における安定構造を計算し他の状態との相対的エネルギーを調べたところ、特にLMCT状態は他の状態と異なる安定構造を取ってエネルギーが低下することがわかり、LMCT状態を経由した無輻射失活を支持する結果が得られた。また、8配位錯体と7配位錯体における配位子とEuの距離の違いにより、軌道の混合や軌道エネルギー、LMCT励起状態のエネルギーも変化することを明らかにし、発光効率の違いに寄与していることを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第二年度である今年度は、申請書の段階の研究計画から少し予定を変更し、理論計算手法の開発に加えて、希土類分子や希土類錯体についての理論的研究に重点をおいて研究を進めた。理論計算手法の開発としては、3項間漸化式法による高精度な電子状態計算の効率化を実現するために、3項間漸化式法の虚時間発展を基礎的な手法に対して適用して検証を行い、さらに高精度な電子状態計算に対する式を導出することができた。また、昨年度から継続している希土類分子や希土類錯体についての理論的研究として、セリウム(Ce)を含む分子や、ユーロピウム(Eu)やテルビウム(Tb)を含む錯体の電子状態計算を行った。特に、希土類錯体の発光・緩和過程に寄与する状態の構造やエネルギーを検証し、配位子から中心金属への電荷移動(LMCT)した状態の関与についての重要な知見が得られた。以上の理由からおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、申請書の段階の研究計画から変更し、理論計算手法の開発の続きとプログラムの整備、さらに応用計算を行う。特に、昨年度までに開発した、虚時間発展法に対して拡張した3項間漸化式法を用いて、時間依存Schroedinger方程式を解く高精度計算の実現を目指す。そのほかの理論計算手法の開発についても継続する。また、今年度に引き続き、希土類分子に関連する化合物として、ユーロピウム(Eu)やテルビウム(Tb)といった希土類を含む錯体の構造や励起状態、緩和過程に関する理論的研究を行うとともに、研究計画にある希土類分子の超高速電子・スピンダイナミクスの応用研究を目指す。
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