2019 Fiscal Year Research-status Report
The Evolvement of "Emergence" Concept and the Ontology of "Emergence"
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19K00005
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
森 秀樹 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (00274027)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 創発 / 進化 / 科学論 / Herbert Spencer |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)創発に関する先行研究によれば、ミルが、要素間の関係によって要素のもつ性質とは異なった性質が生じることを「異結果惹起的」と呼んでいたものを、ルイスが受け継ぎ、「創発的」と呼ぶようになったとされる。確かに、これら二つの概念の影響関係は明らかである。しかし、「異結果惹起的法則」が化学ないし社会といった特定の領域に限定されていたのに対して、「創発的」という概念はあらゆる領域に当てはまるものとして考えられている。そこで、ミル、ベイン、スペンサー、ルイスの相互影響関係について分析を行い、ベインとスペンサーがミルとルイスを媒介する役割を果たしており、特に、スペンサーにおける、環境と有機体との相互関係の中での分化という着想がルイスの「創発」に大きな影響を及ぼしたということを明らかにすることができた。これは、従来の先行研究では指摘されていなかった点であり、その成果を「心理学における「創発」概念の系譜」という論文にまとめた(2020年公表予定)。(2)スペンサー自身は「創発」という概念を術語としては用いていないものの、新しい性質が生まれることを「分化」という仕方で考えている。そして、スペンサーは分化による進化を、あらゆる領域に妥当する普遍的な原理と見なし、そのことを「総合哲学」という構想の中で実証しようとした。それによれば、認識とは生物と環境との間の絡み合いを検出するものであり、その意味で実在的なものと見なすことができる。しかし、その実在性は、絡み合いのあり方と相関的であり、状況性や歴史性を伴う。創発とは世界に新しい秩序が誕生するということであり、その秩序の認識もまた新しい出来事なのである。このような進化論的認識論は、科学哲学に見られる還元主義的傾向と反還元主義的傾向との対立を調停するものになりうる。この点については、現在、論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請した研究計画によれば、2019年度は、(1)複雑系の科学の検討と(2)初期創発主義の解明とを遂行することになっていた。(2)については「研究実績の概要」で示したように、想定していた計画を実施することができた。しかし、(1)の課題、複雑系の科学と還元主義的な科学論との関係については、(2)の研究から手がかりを得ることができたものの、その内容については現在論文を執筆中であり、完遂したとはいえない。しかしながら、(2)の研究と関連して、研究計画では2020年度に予定されていたスペンサーの哲学における進化論とシステム論の検討については先取りして実行することができ、論文の一部に組み込むことができた。また、19世紀における生物学の発展の影響下で、創発概念が展開されてきたという上記の研究成果は、ニーチェやハイデガーに見られる生物学主義的傾向を位置づけなおす視座を与えた。この論点については学会発表を行うことになっている。これらのことから、研究計画は概ね順調に進捗しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
「進捗状況」において示したように、研究の計画の順序を入れ替えることで、研究を着実に進めている。2020年度は、2019年度に積み残した(1)「複雑系の科学の科学論的検討」という課題と、当初から予定されていた(2)進化論とシステム論の影響の検討と(3)創発主義の検討という三つの課題に取り組むことにする。(2)の課題については、スペンサーについての検討はすでに終了したので、ダーウィンにおける「進化」の概念を、科学論との関係の中で、検討することにする。この課題は(1)の課題とも関連づけて検討する必要がある。従来、「創発」はもっぱら対象の性質に関する概念として検討されてきた。しかし、「創発」は対象を認識する際の枠組みも規定している。このような進化論的認識論の着想を取り入れることは科学論における、還元主義と非還元主義との対立に新たな視座をもたらすことになるからである。(3)については、S. Alexander, Space, Time, and Deity, J. S. Haldane, Mechanism, Life and Personality, C. L. Morgan, Emergent Evolution, C. D. Broad, The Mind and Its Place in Nature といった代表的な創発主義者の著作から、創発の具体的な内実を明らかにすると同時に、彼らが前提としていた科学論について考察することにする。
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Causes of Carryover |
端数が残金として残った。
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