2020 Fiscal Year Research-status Report
The Evolvement of "Emergence" Concept and the Ontology of "Emergence"
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19K00005
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
森 秀樹 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (00274027)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 創発 / 進化 / 科学論 / Herbert Spencer |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)論文「スペンサーにおける進化論の形成と創発」は、スペンサーの進化論が創発主義に及ぼした影響について考察した。スペンサーは「進化」を、物質、生物、心、社会といった諸領域にあてはまる普遍的な原理と見なした。進化概念の普遍化は心の領域にも適用され、認識もまた進化論的にとらえられるようになる。このような進化論的認識論は、実在もまた諸事物の相互関係の中で展開されるものだという着想を創発主義にもたらした。 (2)スペンサーは社会進化論の提唱者と見なされてきたが、それは彼の哲学の一部でしかない。論文「スペンサー「総合哲学の体系」の形而上学的構想」は『総合哲学の体系』全体の形而上学的構想について考察した。『生物学原理』によれば、進化とは諸部分が環境との相互作用の中で互いに絡み合う関係を形成していくことである。『心理学原理』によれば、認識は単に対象の認知にとどまらず、環境との絡み合いを認知する役割をも担っている。これらに基づき、『総合哲学の体系』全体の目的が、個別的な対象の認識を超えて、環境全体との関係のあり方について考察することであることを明らかにした。 (3)発表「生物学は存在論的に思惟しなかったか」は、ハイデガーとスペンサーとのすれ違いを、ベーアらの発生学を手がかりにして見直すことで、生物学がハイデガーとは別の仕方で存在の生成(分化)について思惟してきたことを明らかにした 。まず、ハイデガーによる生物学批判を吟味することで、ハイデガーの批判の限界を指摘した。そして、スペンサーにおける生物学的な哲学を概観することで、ハイデガーにおいてはたどられなかった「生命の存在論」の可能性について考察した。最後に、スペンサーに見られる「環境」と「分化」という着想を用いることで、ハイデガーに見られる分節の「割り切れ無さ」を記述しなおすとともに、彼の思想の転調を位置づけることができることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、(1)進化論とシステム論の影響の検討と(2)創発主義の検討を予定していた。 まず、(1)については、H.Spencerらの進化論から、(環境との相互作用においてより複雑な機能が分化していくという)システム論的な発想を析出し、研究実績に記載した成果を上げることができた。そして、還元主義的科学哲学が創発を認識論的なものでしかないと批判してきたのに対して、スペンサーの思想を「進化論的認識論」として解釈することで、創発に対する批判の再検討を行った。この成果に基づき、「スペンサーにおける科学論と創発の進化論的解釈」という論文を執筆中である。この論文は(2)の課題に取り組む際の「進化論的認識論」という視座を与える役割を果たす。 (2)についてはS.Alexander, Space, Time, and Deity, C. L. Morgan, Emergent Evolutionといった、代表的な創発主義の著作から、創発の具体的な内実を明らかにすると同時に、彼らが前提としていた科学論についての考察を行うことで、還元主義的科学哲学と創発主義とがすれ違う論点を明確にすることを行った。還元主義的科学哲学は創発主義を実体論的なものとして解釈しがちであるが、創発主義者は創発を、環境を含めた新しい関係性が生まれることとして考えている。創発とはこれまでにない新しい関係性、そして、新しい認識のあり方が誕生することであるとするスペンサーの着想に基づいて科学を進化論的な仕方で解釈することによって、還元主義と創発主義の間のすれ違いを解消することができるという着想に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)まず、昨年度に行った研究の内、公表していない部分について論文執筆を行う。具体的には、進化論的認識論という観点からS.AlexanderやC.L.Morganの思想について検討を行い、創発という概念が、環境の中での意味の生成に注目するものであり、この観点からすれば、科学の営みすら一種の創発と見なすことができるということを明らかにする。 (2)次に、創発や進化論的認識論といった着想が現代の科学哲学にどのような寄与をなしうるのかを検討する。まず、還元主義的科学哲学と複雑系の科学との論争を振り返る。還元主義的科学哲学の代表例としてE. Nagel, The Structure of ScienceやC. G. Hempel, & P. Oppenheim, "Studies in the Logic of Explanation"を、還元主義批判をおこなった複雑系の科学の典型としてS. A. Kauffmanの主張を検討する。その際、現代における心の哲学(例えば、J. Kim, Mind in a Physical World)や生物学の哲学(例えば、K.Sterelny & P.E.Griffiths, Sex and Death, Chap.7)における創発をめぐる議論を踏まえた上で、Van Frassen, The Scientific Imageにみられる反実在論的科学論と実在論的科学論とのの論争点について進化論的認識論の立場から調停を試みる。 (3)以上のような理論的研究と並行して、システムバイオロジーや生態進化発生学といった生物学のいくつかの領域の中で創発がもちうる科学的な意味について考察することを試みる。
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Causes of Carryover |
感染症の流行がおさまらず、予定していた出張を行うことができなかったため、予算との差が生じた。本年度も学会がオンライン開催になる可能性があるため、適切な時期に対応するようにしたい。その場合、購入したソフトウエアのライセンスの更新と、研究を進める中で新たに必要となった文献の収集とに使用することを予定している。
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Research Products
(3 results)