2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00007
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
後藤 弘志 広島大学, 人間社会科学研究科(文), 教授 (90351931)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人格 / 徳倫理学 / トマス・ヒル・グリーン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本近代初頭における人格概念の受容史を、第一期:明治20年代における訳語の確立まで、第二期:明治30年代から大正期における国民道徳論と教養主義との対立、第三期:戦時期昭和における国体論、教養主義、マルクス主義の対立という三つの時期に分け、《近代的個人および国民の形成》という新たな時代の要請と、受け皿としての《徳倫理学的土壌》という二つの観点を横軸としながら、とくに第一期(計画初年度)と第二期(次年度以降)に焦点を当てて再構成することを目的とする。 令和三年度の計画:訳語確定時期に至るまでのPerson概念について、人間一般の役割という形式主義的・普遍主義的立場(カント)と、歴史社会的文脈において具体化された役割という歴史主義的・特殊主義的立場(ヘーゲル、グリーン)という対立軸を設定し、後者を日本の近代化期における個人と国家の関係理解の共通特徴として規定する。その際、《本務/本分/職分》概念に着目して、人格概念受容の徳倫理学的背景を解明する。 次に、この共通特徴を第一列とし、その下に第二列として個別特徴を類型的に描き出す。すなわち、明治30年代後半から大正期の代表的人格論者のうち、すでに取り扱った朝永三十郎を除く思想家を、【原子論⇔関係主義】という尺度の上に位置づける。この作業を通して、個人と国家の関係理解に関する第一期と第二期の異同を定式化する。 研究成果:このうち、年度内に達成できたのは、西周助訳『畢洒林氏万国公法』(1868)や、津田真道訳『泰西国法論』(1868)等の中に、権利・義務概念の相互基礎づけと意図的すり替えによる両概念の疑似身分制的取り込みの現場を突き止めたことである。この相互基礎づけ関係を、関係主義的人格概念の内実として解釈するという視点は、従来の研究においては見られなかった点である(公開準備中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画が遅延した理由は次の四つである。 本研究への助言を仰ぐべく、人格概念の哲学的・倫理学的分析において名高いミュンスター大学のクヴァンテ教授と、相互に往来しての共同研究を実施する計画だったが、新型コロナ感染症の影響拡大により、それがかなわなかった。 これを代替・補足する機会として、広島大学・ミュンスター大学(ドイツ)が共同で開催した国際ワークショップ〈記憶〉を主催し、関係主義的人格概念が準備した国家主義的人格理解が、戦後の戦争責任論争において、〈裏返しの全体主義〉という形で残存する事実と同時に、国家主義あるいは民族主義的でない人格概念に基礎を置いた戦後責任の可能性について報告し、論文集に取りまとめることができた。これはいわば本研究計画の出口に当たる成果だが、その準備と実施、成果の取りまとめに想定以上に時間と労力を費やすこととなった。 また、令和二年度に再編・発足した広島大学大学院人間社会科学研究科(人文社会系6研究科を統合)において副研究科長として運営業務に携わり、なかでも新型コロナ感染症蔓延の直接的影響を被る業務部門の責任者として令和三年度も引きつづき対応に追われ、研究業務が圧迫された。 さらに、この管理業務を引き受けることを想定しない段階で計画していたために、これも延び延びになっていたクヴァンテ教授の翻訳論文集出版の責任編者として、その編集作業に相当の時間と労力を当てざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の遅延により、研究期間を1年間延長し、計画全体の完遂に可能な限り努める。 まず、前述した第一列の共通特徴を踏まえて、第二列における思想展開に焦点を当て、明治30年代後半から大正期の代表的人格論者である紀平正美、阿部次郎、渡邉徹の思想を、彼らの人格論が依拠したとされるヴィンデルバント、ヘーゲル、リップス、ロッツェ、シュテルンらとの異同にも目配りしながら、【原子論⇔関係主義】という尺度の上に位置づける。次にこの作業を通して、個人と国家の関係理解に関する第一期と第二期の異同を定式化するための理論的範型を見出す。
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Causes of Carryover |
本研究への助言を仰ぐべく、人格概念の哲学的・倫理学的分析において名高いミュンスター大学のクヴァンテ教授と、相互に往来しての共同研究を実施する計画だったが、新型コロナ感染症の影響拡大により、それがかなわなかったことが、次年度使用額が生じた主な理由である。 そこで、明治30年代後半から大正期の代表的人格論者である紀平正美、阿部次郎、渡邉徹が依拠したとされるヴィンデルバント、ヘーゲル、リップス、ロッツェ、シュテルンらにおける徳倫理学的要素について共同で検討することを目的として、2022年11月にミュンスター大学を訪問する費用に、当該額を優先的に当てる。
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Research Products
(2 results)