2020 Fiscal Year Research-status Report
和辻哲郎の倫理学理論の行為論的転回:「徳」に基づく知覚と行為の一体的構造
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19K00008
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
飯嶋 裕治 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (80361591)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 行為 / 行為の反因果説 / 行為の全体論的構造 / 実践的推論 / 徳 / 和辻哲郎 / ジョン・マクダウェル / G・E・M・アンスコム |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、研究計画に示した手順1「和辻の倫理学理論に見出される行為論の提示」に関わる成果として、2021年2月に国際日本文化研究センターの共同研究会でゲストスピーカーとして研究発表を行なった。そこでは、大正時代の若き和辻によるニーチェ解釈に焦点を当て、それが後の倫理学理論にいかに繋がり得るものであったのかを思想史的に検討した。この発表は、同センターに当時外国人研究員として所属していた中国・中山大学の廖欽彬氏から招待を受けたもので、発表当日も、中国や台湾の思想研究者と活発な議論を交わすことができた。 また、手順1および手順2「和辻の行為論を現代の議論状況の内に位置づける」に関わる成果として、2021年3月刊行の論文集『和辻哲郎の人文学』(木村純二、吉田真樹編)に寄稿した論考「和辻哲郎の「人間関係」の行為論──現代哲学・倫理学理論との対比から」が挙げられる。そこでは、和辻による行為論の理論的特徴を、主著『倫理学』に即してまとめつつ、それが現代の議論状況においてどのように位置づけられ得るのかについて検討を行なった。 さらに、現在、本研究課題の最終的な成果となるような著作の執筆を進めているところだが、手順2および手順3「知覚と行為に横断的に関わる概念能力としての「徳」の探究」に関わる部分として、アンスコムの行為論を和辻の議論と接続させて論じている箇所を、勤務先の大学で講義した。参加した学生たちからの様々な質問・意見を受けて、草稿をブラッシュアップすることができた。 また前年度から引き続き、M・トンプソン『生と行為(Life and Action)』を研究会の場で継続的に読み進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に示した手順1(和辻の倫理学理論に見出される行為論の提示)に関しては、東アジアの研究者との間で意見交換を行なうことができた。 手順2(和辻の行為論を現代の議論状況の内に位置づける)に関しては、論文集への寄稿によって一定の成果を示すことができた。 手順3(知覚と行為に横断的に関わる概念能力としての「徳」の探究)については、マクダウェルだけでなく、徳認識論も視野に入れて、徳に関する知見を広げることができた。 そして、授業のために毎週の講義原稿を作成するという形で、本研究課題の最終的な成果となるような著作の執筆を着実に進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度となる2021年は、これまでの研究を踏まえて、その成果をまとめる段階となる。具体的には、一冊の本となるような原稿を一通り完成させ、出版社に持ち込むところまでを予定している。 なお、2021年度はサバティカルを取得したため、原稿執筆に集中して取り組むことが可能となる。また、この間、東京大学大学院総合文化研究科に客員准教授として招かれたため、執筆中の草稿を用いた講義を行ない、さらなるブラッシュアップをはかる予定である。
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Causes of Carryover |
研究打合せや研究発表のための出張を予定していたが、新型コロナウィルス流行ですべて取りやめることとしたため、その分の予算を丸々使うことができなかった。 2021年度は、事態が落ち着いた場合は改めて出張費用として使用し、それが困難な場合には、主に研究成果を発表するための用途に用いる予定である。
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