2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K00009
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
佐藤 岳詩 専修大学, 文学部, 教授 (60734019)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | メタ倫理学 / 規範倫理学 / アイリス・マードック / リチャード・ヘア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、「メタ倫理学と規範倫理学はいかにして再接続しうるか」という問いの元に、分断が進んできた両者を架橋する方途を探求することを目的とするものであった。これまでの三年間で、メタ倫理学の規範倫理学からの中立性を説いた側の理論やそれを批判する論者らの議論、あるいは逆に応用倫理学の側からメタ倫理学的な前提まで遡る議論を検討してきた。最終年度においては、イギリスの哲学者、アイリス・マードックの議論の集中的な検討を行った。マードックは、リチャード・ヘアらが主張するメタ倫理学の規範中立性を徹底的に批判したことで知られているが、他方で、自身の積極的な立場がどのようなものであるのかということに関しては十分な研究が行われてこなかった。そこで、彼女のメタ倫理学上の主張がどのようなものであるのかということを、一次文献から析出し、二次文献の検討を通じて明確化した上で、代表的な規範倫理学理論である徳倫理学と対比することで、メタ倫理学と規範倫理学がどのように関係づけられるかを改めて論じた。四年間の研究を通じて、メタ倫理学が規範倫理学から完全に中立であるということは難しく、そもそも倫理とは何かということの内容レベル、形式レベル両面の理解が、それぞれのメタ倫理学的な前提にも大きく影響しているということが明確となった。さらにそれらは最終的に応用倫理学の個別の場面に対しても影響を与えることが、エンハンスメントの研究から見えてきた。今後はこの点をさらに深め、特に、倫理とは何かということの根本的な理解を支える要素の一つである、「価値とは何か」ということが改めて議論される必要がある。
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