2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00010
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
新名 隆志 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (30336078)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ニーチェ / 力への意志 / 遊戯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,本研究課題に関連する申請者の直近の論文2本について,日本ショーペンハウアー協会ニーチェ・セミナー(第31回,第32回)において合評会が行われた。申請者は応答者として,質問者や参加者との議論を通してこれらの論文の再検討を行った。 2018年の論文「ニーチェの虚構主義的解釈の検討」は,ニーチェの道徳思想をメタ倫理学における虚構主義として理解する可能性を検討したものである。本研究課題は,ニーチェが道徳を遊戯の手段として捉え返そうとしたという解釈仮説を立てているが,この解釈は,ニーチェをメタ倫理学的な虚構主義者と捉える解釈と親和性が高い。合評会では虚構主義者ニーチェというこの解釈の説得力を詳細に吟味することができた。 2019年の論文「「すべての価値の価値転換」に合理的根拠はないのか―ブライアン・ライターのニーチェ解釈の批判」は,ニーチェ研究を牽引する一人であるB.ライターのニーチェ解釈を批判し,ニーチェの価値転換思想の意義を再確認するものである。ニーチェが道徳を遊戯の手段として捉え返そうとしたという先述の解釈仮説は,この道徳の捉え返しこそが,ニーチェの価値転換思想の本質であるという主張を含んでいる。この論文は,いわばこの主張のための予備作業として,ニーチェの価値転換思想を不合理なものとして貶めるライターの理解を退けることを目的としたものであった。合評会は非常に有意義であり,申請者が賛同する虚構主義的ニーチェ解釈と,この論文での主張の整合性について再検討の必要性があることに気づかされた。 さらに,本年度は論文「遊戯としての行為――ニーチェにおける遊戯(1)」を著し,ニーチェの力への意志思想が行為を遊戯として捉える思想の発展形態であることを示した。この解釈は,今後の研究でさらに明確にしていくべき先述の解釈仮説の基盤となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたように,今年度は,2018年度までの直近の論文2本の内容をそれらの合評会という形で国内のニーチェ研究者と共に子細に検討するという重要な機会を得ることができた。これは本研究課題の進捗にとって非常に大きなことであった。これらの論文の評価は,本研究課題で提示している解釈仮説の説得力と深く関係するものだからである。合評会を通して,これらの論文の説得力と意義を再確認することができたし,修正すべき点や補強すべき点も明確にすることができた。 本研究の最終的な目的のひとつは,道徳を遊戯と手段とするという思想が,価値転換とそれによるニヒリズムの克服というニーチェの中心的課題の本質にあるという仮説を論証することである。この論証のためにはいくつかのステップが必要だが,その第一のステップと言えるのが,ニーチェの価値転換の原理と言える力への意志説と遊戯概念との本質的な関係を明確化することである。2019年度に発表した論文「遊戯としての行為――ニーチェにおける遊戯(1)」は,これを主題とした論文であった。この論文で明らかにしたのは,力への意志という思想が生と行為を遊戯として捉える考え方の発展形態だということである。これは,本研究が目的とする仮説の論証のための基盤となるような非常に重要な解釈である。この解釈をベースとして,次年度以降の研究において,ニーチェの価値転換思想や道徳思想と遊戯概念との関係についての新しい解釈を積み上げていくことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の論文は,「ニーチェにおける遊戯(1)」ということで力への意志と遊戯概念との本質的関係を明らかにしたので,2020年度はそれをベースとして,力への意志を原理とする価値転換の思想の本質に遊戯という概念があることを明らかにしたい。これを明らかにすることは,とりもなおさず価値転換の目的であるところのニヒリズムの克服,あるいは永遠回帰の肯定というニーチェ思想の中心テーマを遊戯概念を核として解釈することを意味する。ここまでを「ニーチェにおける遊戯(2)」として論文に著すことが,2020年度の第一の目的である。 さらに,本研究課題の申請時には明確に記してはいないものの,ニーチェのニヒリズムの克服を遊戯概念に定位して捉えようとする本研究は,近年の「人生の意味」に関する哲学的研究と内容的に深く結びつくものである。それゆえ,本研究の成果を,ニーチェ解釈を超えて,「人生の意味」の問題の理解や分析に敷衍していくことは非常に興味深く意義のあることだと考えている。2020年度はその方向でも研究を進めてシンポジウム発表を行うことを計画している。
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Causes of Carryover |
2019年度は物品費としてPC(日本HP EliteDesk)およびディスプレイ(EIZO 27型)の購入を予定していたが,プリンターを急遽購入する必要が生じたために,そちらに費用を使い,PC・ディスプレイの購入は見合わせた。以上が次年度使用額が生じた状況である。これらの物品の購入は,次年度使用額75,645円と2020年度交付額400,000円を合わせた475,645円の枠内で行う予定である。
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