2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00010
|
Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
新名 隆志 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 准教授 (30336078)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ニーチェ / 遊戯 / ゲーム / 人生の意味 / 生の肯定 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は,本研究課題に関連する2つのシンポジウム提題を行った。一つは,九州大学哲学会2020年度大会における「人生の意味に関するゲーム説の提唱」である。これはニーチェが理想とした「遊戯」の境地についての研究代表者の解釈に基づき,人生の意味についての近年の分析哲学的議論に対して新しい視座を切り開く試みである。ニーチェ思想にヒントを得た人生の意味論としてはモーリッツ・シュリック「人生の意味について」がある。本提題では,正確に理解されているとは言えないシュリックの「遊戯」への着目の意義を改めて強調し,現代心理学で注目される「フロー」概念や,このフローや遊戯の概念と密接に関連する「ゲーム」概念に関わる近年の研究成果を援用して,人生の意味のゲーム説という新たな説を唱えた。この説には,現代の哲学的人生の意味論における主観説や客観説の基本的枠組みを超える着想があり,それら従来の人生の意味論の典型的難点を克服する長所があると考えている。 もう一つのシンポジウム提題は,日本ショーペンハウアー協会第33回全国大会における「苦しみ,幸福,人生の意味――苦しみの価値転換によるニーチェ的な生の肯定」である。これは「苦しみとしての世界」というテーマでの提題依頼に応えたものである。本提題では,ニーチェの生肯定思想の本質的特徴が,活動それ自体に喜びを見出すというまさに遊戯的な在り方において快と苦を相即的を捉えることにより,苦しみとしての世界を,快を可能にする世界として肯定しようとする点にあることを示した。 以上の2つのシンポジウム提題については,各シンポジウムにおける議論を踏まえて内容を修正し再構築したうえで,今年度論文化する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の基本的な目的は,ニーチェの重要概念としてよく知られながら,その重要性や意義についての理解がほとんど進展していない「遊戯」の概念を理解し,永遠回帰・力への意志・生の肯定といったニーチェの中心的な思想におけるこの概念の重要性を明らかにすること,そして,この概念からニーチェの道徳論もとらえ返すこと,さらにはその道徳論解釈に基づいて虚構主義というメタ倫理学的立場について新しい視座を得ることである。 2020年度は,日本ショーペンハウアー協会全国大会でのシンポジウム提題において,ニーチェの価値転換による生の肯定が,活動自体を目的とする遊戯的な在り方によって可能となるという理解を明確化することができた。これは,本研究の申請書で掲げた6つの仮説のうちの最初の3つの論証にかかわるものである。 また,2020年度は新しい方向への研究の進展があった。申請時にはまだ萌芽的でしかなかった着想であるが,本研究を進める中で,ニーチェの遊戯概念が近年の分析哲学的な人生の意味論に新しい視座を開きうるというアイデアを得た。ニヒリズムという問題との対決を中心的な課題としていたニーチェ思想において,人生の意味や価値の理解が重要なテーマであったのは当然とも言えるが,現代的な人生の意味論とニーチェ思想の対話の可能性を切り開いていくことは,まだ本格的に探究されていない研究課題である。九州大学哲学会大会におけるシンポジウム提題は,この新たな研究の端緒となるものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は,2020年度の二つのシンポジウム提題の内容を,シンポジウムの議論を踏まえて修正・再構成したうえでそれぞれ論文に著すことが,第一の研究目的となる。 「進捗状況」で述べたように,シンポジウム提題の一つは,価値転換によるニヒリズムの克服と生の肯定という,ニーチェ哲学の核心的課題における遊戯概念の意義を明らかにするという本研究の課題にかかわっている。それゆえ,この提題内容の論文化は本研究における重要な成果となる。ただし,この論文はシンポジウムのテーマに即し,詳細なテキスト解釈をある程度省略してニーチェ思想の特徴を際立たせるものとなる。より専門的で詳細な解釈は,2019年度の論文「ニーチェにおける遊戯(1)」に続く論文として構想している「ニーチェにおける遊戯(2)」で提示するつもりであるが,この論文は2022年度の公表を目指す。 もう一つのシンポジウム提題は,研究代表者のニーチェ解釈,特に遊戯の解釈に依拠し,人生の意味についての哲学的議論に一石を投じる試みであった。まずはこの内容を論文化し,人生意味論についてはニーチェ解釈と連関させながらさらに研究を深めたいと考えている。また,この提題の最後では,この提題で示した議論とWhy be moral?問題との関わりについても言及した。これは,ニーチェの遊戯思想解釈に依拠して現代メタ倫理学の議論にも光を投げかけるという本研究課題の一部に対応する内容である。その内容は問題提起にとどまるものであるため,2021年度の論文化にあたっては削るつもりであるが,これを端緒として,ニーチェの遊戯思想と道徳の関係という課題について,研究をさら進展させていくつもりである。そのためにまず2021年度は,ニーチェの道徳論の解釈をより精緻化するとともに,現代メタ倫理学の理解を深めていきたい。
|
Causes of Carryover |
2020年度は,コロナ禍により,参加を予定してた学会大会,研究会がすべてオンライン等の遠隔開催となったため,予定していた旅費は使用しなかった。その分は主に必要書籍の前倒し購入に充てたが,より計画的で適切な助成金使用のために68,898円は次年度に繰り越すこととした。2021年度は,4月現在では多くの学会大会,研究会が対面実施を予定しており,参加可能なものには精力的に参加するつもりなので,次年度使用額分をその費用に充てたい。
|
Research Products
(2 results)