2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K00020
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古田 徹也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (00710394)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 道徳的運 / 意志 / 自由 / 責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、「運」をめぐる古代から現代に至る倫理的思考のおおよその流れを跡づけ、また、当人のコントロールを超えるものと自由の関係といった個別の主題群についても着実に研究を進めることで、倫理学において語られる言説が現実と乖離している現状を変革し、実効性のある新たな倫理学の方向性を打ち出すという、本課題の土台となる研究を遂行した。 具体的には、まず、古代ギリシアの文学や倫理学において、運に対する道徳的生の脆さが主題化され、価値ある生活を営むために人間は運といかに向き合うべきかという問いが重要性をもっていた次第を確認した。次に、近現代の倫理学において、道徳的生に対する運の影響を徹底的に排除する議論の流れを追いつつ、同時に、倫理学上の抽象的な一般論ないし理想論と、否応なく運に曝される現実の生との緊張関係を仔細に分析している幾人かの論者の議論を跡づけた。 個別の主題群については、運と自由の働きを共に否定する決定論的な主張が抱える根本的な問題点を、「説明の達成」や「責任帰属」といった独特な観点から指摘しているルートウィヒ・ウィトゲンシュタインの議論について、その内実を明らかにした。 以上の研究成果は、著書『不道徳的倫理学講義:人生にとって運とは何か』(筑摩書房)の刊行のほか、論文「まだ説明は終わっていない――意志の自由をめぐるウィトゲンシュタインの思考」(『実存思想論集』34)の刊行、各種講演の実施やシンポジウムへの登壇などを通して公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
西洋倫理学史における「運」をめぐる倫理的思考の内実を跡づける、という当初の研究計画を達成したのに加えて、関連する個別の主題群についても研究を進展させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
「行為に正当に与えうる称賛や非難、是認や否認はすべて、究極的には行為者の自由な意志に基づかなければならない」という、いわゆる公正の原則や、「ある主体が道徳的な義務や責任を負うべきなのは、その主体のコントロール下にあった行為ないし意志に関してのみである」という、いわゆるコントロール原則が抱える諸問題を、思想史を踏まえるかたちで洗い出しつつ、決定論とは異なる仕方で、規範性と主体の自己統御性との一見確固とした結びつきを問い直してゆく。
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