2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K00020
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
古田 徹也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (00710394)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 偶然性 / 応報の破れ / くじ引き |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、大きく分けて三つの主題に関して研究を遂行した。 一つ目は、「応報の破れ」をめぐって、古代から現代に至る思想史を辿る研究である。とりわけ、古代ギリシアのテオグニスの思想と、ヨブ記やコヘレト書などのヘブライズムに見られる思想の比較を行い、この主題が弁神論(神義論)および神の超越性という、西洋思想を貫く問題系に直結している次第を跡づけた。 二つ目は、「くじ引き」という方法をめぐる研究である。神話や抒情詩等における道具立てとして、あるいは国家の制度設計の一環などとして、西洋思想においてくじ引きはときに大きな役割を果たしてきた。本研究では、思想史上のくじ引きの位置づけについて辿るとともに、「くじ引き民主主義」をめぐる諸問題、さらに、いわゆる「臓器くじ(サバイバル・ロッタリー)」をめぐる諸問題の検討を行った。 三つ目は、偶然的なものが不断に織り込まれた生の実質を捉える思考の探究である。これに関して本年度は、「永遠の相のもとに世界を捉える」という、スピノザ、ショーペンハウアー、前期ウィトゲンシュタインへと受け継がれてきた世界観のもとで「偶然性」というものがいかなる位置を占めるのか、という問題や、〈世界は偶然に左右されており、人間の存在には「賭け」が含まれている〉という観点が、哲学も含めた人間の実践全体に対するどのような捉え直しへとつながるのか、といった問題を検討した。 以上の研究成果の一部は、単著『はじめてのウィトゲンシュタイン』(NHK出版、2020年)や各種講演などのかたちで公開したほか、次年度の早い段階で公開する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
西洋倫理思想における運の問題を、幅広い時代をまたぎ、かつ現代と接続するかたちで研究を進展させることができ、成果の公開も一定程度進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本研究計画の最終年度となるため、これまでの研究成果全体の公開を見据えつつ、引き続き研究を進めていく。特に、「研究実績の概要」で触れた「くじ引き」をめぐる問題、および偶然性を織り込んだ世界観をめぐる問題について総括することを目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナ禍により、学会や調査のための出張ができなかったため。次年度において同計画を遂行するために使用する。
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