2019 Fiscal Year Research-status Report
生命倫理学前史・成立史における安楽死論とキリスト教の相剋に関する米英日比較研究
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19K00023
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大谷 いづみ 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (30454507)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 安楽死・尊厳死 / フレッチャー / 太田典礼 / ナチス・ドイツ / 優生学 / 障害 / 死ぬ義務 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題「生命倫理学前史・成立史における安楽死論とキリスト教の相剋に関する米英日比較研究」の初年度に当たる2019年度の研究実績として、第1に、ふたつの報告を挙げる。ひとつは、中国武漢で開催された第9回障害学国際セミナーにおいて報告した「障害と安楽死・尊厳死言説――高齢化社会における「死ぬ権利」と「死ぬ義務」」である。高齢化社会における障害者を「死ぬ権利と死ぬ義務」という観点で論じた報告ははじめてであり、最もインパクトのあった報告と評され、本研究を進める励みになった。いまひとつは、本課題において主に焦点をあてている、J.フレッチャーの参照軸である太田典礼について、その優生運動と安楽死運動の関連をまとめ、「優生保護法と安楽死・尊厳死運動史」と題した報告である。本報告は「優生保護法史の多角的検討」をテーマに行われた第2回生命倫理政策史研究会の研究合宿におけるゲスト参加者として行い、参加者から貴重な意見・助言をいただいた。 第2の研究実績として、2016年の米国調査で収集したフレッチャー・コレクションの一次史料、同年のドイツハダマー記念館の調査で収集した資料の整理と、ナチス・ドイツ政権下で行われたT4「安楽死」政策が日本に紹介導入された軌跡をたどる資料の収集、アメリカ精神史に関する文献の収集を挙げる。これら一次史料や基礎文献の収集整理は、地味ではあるが、本研究をすすめるうえで欠かせない作業である。 下記に述べる理由で、当年度の研究は、必ずしも順調とはいえなかったが、2020年1月から急速に拡大した英米のCOVIDー19パンデミック、欧米とは異なる展開を見せているようにも見える2020年5月現在の日本の状況、いずれにおいてもにわかに人口に膾炙するにいたった「トリアージ」に、本歴史研究はあらためて現代的な意味を持つことになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は所属機関における役職就任にともなう諸事に忙殺され、本年度計画していた英国での出張調査をはじめ、予定していたいくつかのインタビュー調査を実施することができなかったため「(3)やや遅れている」と自己評価した。 しかしながら、役職就任によって中国武漢の東アジア障害学国際セミナーにおいて上記報告を行う機会を得、あらためて、安楽死・尊厳死言説が障害者・難病者にとって、とりわけ欧米の高等教育機関での留学経験を持つ知識層にとって、アンヴィバレントなものであるかを目の当たりにしたこと、さらに、2020年に顕在化し現在進行形で終息の見えないCOVID-19パンデミックは、その発生が、上記の活発な討議をおこない直に街の風景とそこに住まう市井の人々に触れた武漢であったこともあって、本研究に現代的なリアリティをもたらすことになった。
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Strategy for Future Research Activity |
海外への入出国のみならず、国内においても、移動の制限、行動制限がいつまでつづくか見えない現状況下では、英米をはじめとする実地踏査には大きな制約がかかることになる。現時点では、テレワークやオンライン講義への転換に忙殺されており、インフラやスキルがついていかない状況にある。しかしながら、現在進行形でおきていることは、第一次世界大戦後のスペイン風邪パンデミック、1920年代の世界恐慌、1950-60年代のポリオ・エピデミックの再来ともいうべきものである。たとえば、COVID-19の死者がどのような階層に集中しているか、医療従事者によるトリアージが集中しているのはどのような人々か。現在の文脈に再配置することで、本研究の持つ意味はよりリアリティを持つことになるであろう。
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Causes of Carryover |
本研究の成果報告に必要な旅費・出張費は、電動車椅子使用者である報告者がたずさわる別途のファンドでまかなうことができた。さらに、本年度計画していた英国での出張調査をはじめ、予定していたいくつかのインタビュー調査を実施することができなかったため、相応の残額が生じることとなった。 COVID-19パンデミックの推移により、2020年度の国内外の調査の可否は、現時点では見通せない。が、リモート調査など、調査研究や情報共有の方法が急速に変化している。当面は必要なインフラの整備にあて、2022年度までをみとおしながら、本研究を現在の文脈に再配置することとする。
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Research Products
(4 results)