2020 Fiscal Year Research-status Report
生命倫理学前史・成立史における安楽死論とキリスト教の相剋に関する米英日比較研究
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19K00023
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大谷 いづみ 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (30454507)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 安楽死・尊厳死 / 死ぬ権利 / 死ぬ義務 / 死なせる義務 / ALS患者嘱託殺人 / 自殺 / COVID-19パンデミック / トリアージ |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の第2年度に当たる2020年度の研究実績として、第一に以下の2系統の報告を挙げる。一つは、“The Covid-19 Crisis and the Experience of Polio Survivors: Life Before and After a Pandemic”をはじめとする数度の報告である。いずれも「戦時」にも例えられる「例外状態」にあって、しばしば用いられる「トリアージ」の問題性とともに、かつてのパンデミックであるポリオ、とりわけ身体障害者の米国大統領として唯一無二の存在であるF・ルーズベルト大統領を糸口に今般のCOVID-19パンデミックを論じたものであり、現パンデミックにおけるワクチンによる解決を「後遺症」「障害」という変数を用いて歴史的な視座を提供した。いまひとつは、2020年7月に発覚したALS患者嘱託殺人事件に関連した仏教系の2誌の取材および「「<間>の生」を聴く/ 「<間>の生」を語る」と題するオンラインセミナー報告である。いずれも、同事件に関連して語られる安楽死問題を、報告者が長年の生命倫理教育をふまえて若年層の死生観の変容を述べた点が話題となり、本研究の今後、特にパンデミック状況下における「人生会議」について独自の視座を意義づけることとなった。 第二の研究実績として、COVID-19パンデミック下において、根絶に成功した事例とみなされる一方で、「COVID-19はわれわれの時代のポリオ」とも称されるポリオに関して集中的に行った米日の資料蒐集である。報告者は1960年にポリオに罹患して後遺症を持つハイリスクであり、訪問介護で日常生活を維持しているため介護崩壊リスクに直面しながら研究教育に当たっている。これら当事者としての経験を研究者の目で冷静に観察・記録することにより、本研究は、よりリアリティのある通時性・共時性を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度末よりはじまったCOVID-19パンデミックは、2021年5月現在、日本において第4派の拡大渦中にあり、3度目の非常事態宣言下にある。調査を予定していたアメリカ・イギリスをはじめ世界の多くでなおロックダウンが続いており、国内外の調査出張もままならない状態である。しかしながら、そのような状況下にあって、研究調査を現状で可能な方法にきりかえ、COVID-19パンデミックをふまえた資料収集とともに、これまでの研究成果を国際学会を含めたいくつかの機会にその成果報告をなしえたことは、とりわけ研究成果の一般市民への還元という点で重要であり、その点で、「順調に進んでいる」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19パンデミックの状況について、欧米ではワクチン接種が進んでいるものの、日本では2021年5月現在、第4派の感染拡大渦中であり、ワクチン接種について必ずしも見通しが立たないのが現実である。ただし「研究実績の概要」で述べたように、COVID-19パンデミックそれ自体は、本研究の意義をより明確にし、深化を促すものである。 アメリカ、イギリスでの調査研究については、少なくとも2021年度は断念しなければならない。アメリカでの調査対象はデジタル化されていないため、研究計画は変更せざるをえない。研究者自身がハイリスクにあり、日本国内での公共交通機関を用いた移動が困難なため、国内移動を要する調査研究も控えざるを得ない状況にある。 これをふまえて、2021年度は、(1)現在の蒐集資料のデジタル・アーカイビングとそのネットワーク化に注力すべく、研究計画を変更する。(2)研究主題そのものは、時局を得ており、報告や取材の機会には積極的に成果還元の機会とする。また、ネットワーク上での成果発表も検討したい。(3)研究資料の蓄積と蒐集、分析については、従来通り、地道な継続につとめる。
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Causes of Carryover |
COVID-19パンデミックの拡大により、昨年度、本年度に計画していた英国・米国での出張調査をはじめ、予定していた国内の調査を実施することができなかったため、相応の残額が生じることとなった。本研究の主たる対象資料はデジタル化されておらず、現地調査以外の方法はないため、8(1)に記したごとく、当面は現在の蒐集資料のデジタル・アーカイビングとそのネットワーク化の整備にあて、2022年度までをみとおしながら、本研究を現在の文脈に再配置することとする。 なお、会計処理が間に合わなかった前年度の執行分について、2021年度早々の3たびの緊急事態宣言発令渦中で遅れているものの、現在対応を進めているところである。
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Research Products
(6 results)