2021 Fiscal Year Research-status Report
Philosophical Approach to the View of Humanity in Classical Antiquity through an Analysis of the Debate about the Generation of Animals
Project/Area Number |
19K00026
|
Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
今井 正浩 弘前大学, 人文社会科学部, 教授 (80281913)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 西洋古代の人間観 / 発生理論 / ヒッポクラテス / プラトン / アリストテレス / 初期アレクサンドリア医学 / ガレノス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、人間を含めた動物の生殖発生をめぐる論争史を通してみた西洋古代の人間観の特質を、古典ギリシア語・ラテン語の原典資料に基づいて実証的に解明しようというものである。 本研究の第三年度にあたる令和三年度には、令和元年度および令和二年度の研究成果をふまえつつ、以上の論争がヘレニズム期以降の医学者たちや同時代の哲学者たちの参画によってどのような方向に展開していったかという点に軸足を移すことによって、この論争の帰趨に焦点をあてることを主な課題とした。この課題との関連で、研究者は帝政ローマ期の医学者ガレノスの『胚子の形成について』と題する論考を手がかりとして、この医学者の発生理論とその特質を明らかにするための作業に重点を置いた。 ガレノスは、ヒッポクラテスの医学書(『生殖について』『子供の自然本性について』『疾病について』第四巻から構成されている一連の論考等)およびアリストテレスの動物学論考(『動物の発生について』等)の論述等の内容を入念に検証しつつ、初期アレクサンドリアの医学者たち(ヘロピロス、エラシストラトス等)によって提供された解剖学的知見に自らの経験や知見等を加えながら、人間の発生をめぐる先人たちの諸見解に対して批判的な応答を展開するとともに、独自の見解を示している。ガレノスの発生理論の主な特質としては、(1)人体の構造および働きについては、プラトンの「魂の三部分説」に基づく人体理解を前提としていること、(2)人間の生殖発生の仕組み等をめぐっては、ヒッポクラテスの考え方に基本的に依拠していること、その一方で、(3)「心臓中心主義」に立ったアリストテレスやストア派の発生理論に対しては、これらに抜本的な修正を迫るという考え方に立っているという点等を指摘することができる。 以上のことを、令和三年度の研究における実績・成果として提示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理由 本研究は、当初は、令和三年度を研究の最終年度として、令和元年度より三年計画で進められる予定であった。 研究初年度にあたる令和元年度には、ヒッポクラテスに代表される古典期ギリシアの医学者たちがこの論争において果たした役割を明らかにするという作業に重点を置いてきたのに対して、研究第二年目にあたる令和二年度には、アリストテレスの動物の発生理論がこの論争の進展にどのような役割を果たしたのかという点を中心に考察を進めてきた。本研究は、第二年度までは、当初に立てた研究計画に沿って、概ね順調に進展してきている。 本研究の最終年度にあたる令和三年度には、研究の進捗状況に若干の遅延が生じるに至った。その主な理由の一つとしては、当該年度に主題的に取り組んだ医学者ガレノスの発生理論とその特質を明らかにするための作業が、当初の予定を上回る時間を要することが判明したということが挙げられる。その結果、本研究については、当初に予定されていた三年という研究期間に一年間の延長を申請することになったというわけである。 以上のことから、本研究は、当初に立てた研究計画の方向と内容に基本的に沿いつつも、その全体的な進捗状況において、若干の遅延が生じていると判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和四年度は、一年間の延長申請を行った上での本研究の最終年度にあたる。 当該年度には、令和三年度に引き続き、医学者ガレノスの発生理論とその特質、およびこの医学者の発生理論が動物の生殖発生をめぐる論争史の展開の中にどのように位置づけられるのかという点を中心に、最終的にこの論争の帰趨を見極めるための作業に入る予定である。 ガレノスの医学の研究は、近年、欧米の専門研究者たちによって精力的に推し進められてきたものの、その全体像を解明するところまでは至っていない。この医学者の発生理論に関して言えば、『胚子の形成について』と題する論考に加えて『精液について』(全二巻)と題する論考の論述内容を入念に検討することが不可欠であって、しかも、発生学に関するこれら二篇の論考の執筆年代が大きく隔たっていること等も、この医学者の発生理論の全体を精確に明らかにする上で、きわめて重要な課題の一つである。 本研究の最終年度にあたる令和四年度には、以上の観点に立ってガレノスの発生理論とその特質を明らかにするための作業に専心することによって、この論争の帰趨をしっかりと辿っていく予定である。
|
Causes of Carryover |
本研究の第三年目にあたる令和三年度に購入を予定していた関係資料(図書等)の納入が、当初予定していた時期に間に合わなかったこと、同年度に予定していた資料収集や成果報告を目的とした出張のための旅費が、新型コロナウイルス感染防止のための措置等によって執行できなかったために、次年度使用額が発生した。 当初の研究計画の方向および内容に大きな支障をきたすものではないと判断されることから、本研究の最終年度にあたる令和四年度には、追加的に必要となる資料の購入、旅費の執行等へ迅速に対応する予定である。
|
Research Products
(3 results)