2022 Fiscal Year Research-status Report
欠如的アプローチを超える身体理論の研究:現代フランス現象学運動を中心として
Project/Area Number |
19K00029
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
澤田 哲生 東北大学, 教育学研究科, 准教授 (60710168)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 現象学 / 身体 / メルロ=ポンティ / リシール / クラストル |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は本事業4年目であった。本務校が富山大学人文学部から東北大学大学院教育学研究科に変更となった。7月にフランスのスリジー国際文化研究センターで開催された国際シンポジウム「レヴィナスとメルロ=ポンティ 身体と世界」で、フランス語による研究発表を行った。海外の研究者たちも肯定的な反応を示してくれ、本研究テーマである「身体」に関して、メルロ=ポンティの身体論の新たな可能性を提示することができた。これは本研究の集大成の一部分を構成する。来年度に論文が公刊される予定である。 論文に関して、静岡哲学会の学会誌『文化と哲学』に「空想・神話・共同体――マルク・リシールとピエール・クラストル」という論文を発表した。この論文では、人類学者ピエール・クラストルの仕事をマルク・リシール現象学の観点から検討し直した。その結果として、クラストルが観察した南米インディアンたちの身体的な営為(狩猟、語り、埋葬、等々)のなかに、「空想(Phantasie)」と呼ばれる現象の展開が確認された。これにより、本研究のテーマである「身体」を「知覚」という実在的な水準でなく、非実在的な水準から考察することが可能となり、研究成果の幅を広げることが可能となった。 その他、2017年に『中井久夫 精神科医のことばと作法』に寄せた文章(「中井久夫『分裂病と人類』」)が、新装版(『中井久夫 精神科医が遺したことばと作法』)に再録されたが、これは一般向けの仕事である。同じく一般向けの仕事として、対人援助グループ(塩飽海賊団)が企画した「心理アセスメントから芸術療法へ、芸術療法から芸術活動へ :フランス哲学絵画論にもとづいて作品を眺める」(2023年3月10日)において、医療当事者の芸術実践とそこから生まれた作品に関するコメンテーターを担当した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本事業において国際シンポジウムを計画していたが、これまで新型コロナ・ウィルスの問題により実現できないままであった。2022年度は、この問題があるていど落ち着いたので、マルク・リシールに関する国際シンポジウムのあらためての開催を企図した。しかしながら、本事業初年度(コロナ前)に国際シンポジウムに意欲的であったヴッパタール大学のアレクサンドル・シュネル教授も、パリに在住のサシャ・カールソン氏も、コロナが落ち着いて間もない渡航に難色を示し、シンポジウムの開催は実現しなかった。この状況は当分変わりそうにないので、本事業におけるシンポジウムの開催は断念した。その代替え措置として、研究に必要な文献などをさらに充実させ、それらを精査・分析することに集中した。 また、本務校が変わったことにより、新たな教育・研究環境および生活環境への適応に相当な時間がかかった。それにより、研究のインプットに大きな支障はなかったものの、アウトプットにかける時間を十分に確保できなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
現状において国際シンポジウムを断念させざるえないので、来年度はその分の経費を自分の研究の各学会や学術機関でのアウトプット活動に使用することで、研究を推進する。
|
Causes of Carryover |
本事業において、国際シンポジウムを企画していた。しかしながら、先方の一方的な都合と渡航への難色により、開催が困難となった。このシンポジウムの代わりに、次年度は各学会および学術機関で研究成果を積極的にアウトプットする予定である。このアウトプットにかかる次年度の旅費、謝金(フランス語論文の添削)、資料代として、次年度使用が発生した。
|
Research Products
(4 results)