2019 Fiscal Year Research-status Report
Construction of Nonideal Theory in Ethics: Toward a Unified Theory of Metaethics, Normative ethics, and Applied Ethics
Project/Area Number |
19K00034
|
Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
福間 聡 高崎経済大学, 地域政策学部, 教授 (40455762)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ロールズ / アリストテレス / 非理想理論 / 中間層 / 善に対する正の優先権 / 規範倫理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「倫理学における非理想理論の構築」を目指すことにあるが、今年度は本研究のための布石として、①ジョン・ロールズとアリストテレスとの比較、および②帰結主義・義務論・徳倫理学の再検討を行った。 ①にあっては、ロールズによるアリストテレスおよびアリストテレス主義への批判の変遷を考察した。この批判において一貫しているのは「善に対する正の優先権」というロールズの思想的立場であり、倫理学・政治哲学にあっては、「私はどうあるべきか、何を追求・最大化すべきか」といった善に関わる道徳的考慮よりも、「私たちはどのように他者と協働すべきか」といった正に関わる道徳的考慮の方が核心をなしている、という見解である。しかしながら他方で、政治体制における「中間層」(財産を適度に所有しているために政治的にも有徳である市民)に注目している点でロールズとアリストテレスは一致しており、ロールズの「財産所有の民主制」は、奴隷制度や善についての包括的世界観に依拠したアリストテレスの「中間の国制」に対する現代的な応答であると位置づけることができる。アリストテレスはいわば「非理想理論」として「中間の国制」を提唱し、ロールズにはあっては「理想理論」として財産所有の民主制は構想されているが、財産所有の民主制を非理想理論として提示する一つの方策として、ロールズの著作において含意されている、「すべての健常な人々に対する労働への奨励」を無くし、ベーシックインカムを導入するという施策を学げうることを本研究では提示した。 ②にあっては、他の人々が自身の義務を果たしていない――すなわち、不遵守(non-compliance)の――場合における我々の為すべき振る舞いに関して、どのような見解を帰結主義・義務論・徳倫理学は示しているのかを検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アリストテレスは社会の富のレベルや、富裕層・中間層・貧困層の割合に応じた、望ましい政治体制について『政治学』において考察しているが、これはプラトンの哲人王という理想的な国家観とは異なる、非理想的な国家観(政治哲学)であるといえる。本年度は政治哲学における非理想理論の創始者であるといえるアリストテレスの立場を批判的に吟味することを通じて、ロールズの理想理論とはどのような立場であるのかを逆照射し、ロールズの政治哲学を非理想理論として再構成するにはいかなる修正が必要であるのかが明らかになった。この研究は「ロールズによるアリストテレス批判の変遷について――差異と共通性についての探求」『地域政策研究』 22(2)、2019年12月)として公刊された。 またこれと共に、非理想的状況という観点から帰結主義・義務論・徳倫理学といった規範倫理学における主要理論の再検討を行っており、順調に進んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本来ならば2020年度はメルボルン大学のthe School of Historical and Philosophical StudiesにおいてVisiting Researcherとして在外研究(Daniel Halliday博士との共同研究)を行う計画であったが、新型コロナ禍の影響でこの計画を断念することになった。そのため予定されていたメルボルン大学での「倫理学における非理想理論」に関するセミナーの開催や研究会での発表も中止になった。また現時点において所属大学の図書館や研究室の使用に制限がかかっている状況にある。それゆえ研究計画を大幅に修正する必要がある。 こうした諸制約はあるが、2020年度は帰結主義・義務論・徳倫理学の再検討を引き続き行うと共に、私の立場である「契約主義的構成主義contractualist-constructivism」の倫理学理論としての彫琢を試みる。
|
Causes of Carryover |
2019年3月に予定されていたメルボルン大学での資料調査と研究者との面会が新型コロナ禍の影響で中止になったため、大幅に支出が減ることになってしまった。次年度において国内や海外で学会が開催されるか、現時点では不明確である。そのため助成金は旅費よりも、物品費に多く費やされると思われる。資料等の収集とPC関係の環境改善に多くを充てたい。
|
Research Products
(2 results)