2023 Fiscal Year Research-status Report
Construction of Nonideal Theory in Ethics: Toward a Unified Theory of Metaethics, Normative ethics, and Applied Ethics
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19K00034
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
福間 聡 高崎経済大学, 地域政策学部, 教授 (40455762)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 非理想理論 / 特定された生 / 統計的な生 / 非理想的契約主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、「倫理学における非理想理論の構築」を目指すことにあるが、本年度は非理想的状況における特定された生と統計的な生との間での倫理的判断についての研究を行った。 この研究では、援助に関して、特定された生と統計的な生のどちらを優先すべきかという対立の調停について掘り下げた。この二つの生の間でのジレンマを説明するために、子どもの臓器移植の数が限られている国において、しばしば海外で臓器移植手術が行われているというシナリオを想定した。多額の費用がかかるため、メディアやインターネットを通じて、こうした子どもの動画や実名が取り上げられ、クラウドファンディング・キャンペーンが行われている。こうした取り組みによって、1カ月で数百万ドルもの資金を集めることもある。しかし、ここで倫理的な疑問が生じる。こうした一人の子どもに多額の資金を用いるよりも、途上国のより多くの子どもたちの命を救う方がの望ましいのではないか、と。 私たちは個人として一定額の寄付を行うに際して、海外での移植手術が必要な子ども一人(特定された生)と途上国で予防可能な疾患や栄養失調に苦しむ多くの子どもたち(統計的な生)のどちらを配慮するのが、倫理的であるのだろうか。「身元のわかる犠牲者効果」によって我々は前者を配慮する傾向にあるが、この傾向は道徳的に正当化可能なものであるのだろうか。可能であるとするならばどのような道徳的な理由が提示される場合なのであろうか。この問題について非理想的契約主義の観点から考察をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年に東北哲学会で発表した原稿を論文化したものが出版された(『ロールズを非理想化する――修正された第一原理の制度化に向けて』)。この論文を英文化し、加筆・修正した原稿をThe Uehiro-Oxford-Melbourne-Japan Conferenceで発表した。また2023年8月から9月の間、Monash UniversityのRobert Sparrow教授の下でVisiting Scholarとして「倫理学における非理想理論の構築」をテーマとした在外研究を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ロールズの正義構想をさらに非理想化するにあたって彼の道徳感情論、とりわけenvy(ねたみ)やうらみ(rancor)、いきどおり(resentment)といった感情について検討を行う。社会が安定的あるためにはこうしたネガティブな感情が人びとの間で激しく惹起されないことが肝要であるが、自尊の喪失が原因となって引き起こされるこうした感情に対してどのような政策があれば、秩序だった社会が可能になるのかを非理想理論の観点から考察する。
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Causes of Carryover |
Monash Universityで在外研究を一ヶ月おこなったが、予定よりも費用を抑えることができたため、次年度使用額が生じた。この資金は「今後の研究の推進方策」で説明した研究を行うために使用される。
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