2019 Fiscal Year Research-status Report
古代哲学からのムーシケー概念に基づく芸術考現学―「今日の詩学」の可能性を探る
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19K00038
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
小川 文子 学習院大学, 文学部, 講師 (10726582)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 哲学 / 古代ギリシア哲学 / 芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題において、当該年度は初年度であったため、基礎的な文献の収集並びに、従来の研究整理が主な活動内容となった。 本研究では「芸術」もしくは「art」という言葉で示される対象がどのように推移してきたのか、また、これらの言葉が指し示す対象に何らかの範囲や限定があるのだとすれば、それを決定づけるものが一体何であるのかを明らかにすることを目的としている。さらに、最終的には上記の内容を明確にするうえで、古典ギリシア的観念が有効であるということを示すことが、本研究の課題である。 そのため、本年度は、まず歴史的推移を俯瞰しつつ、それぞれに時代においてどのようなものが「art」ならびにそれに準じたものとして解釈されてきたのかを確認した。例えば、ギリシア語の「ミメーシス」や「ムーシケー」と呼ばれるものから、中世のラテン語によって示される個別のmusica、poesis、picturaといったもの、近現代のartと呼ばれるものどもまで、幅広く網羅的に見ていくことを試みた。こうしたものがそれぞれ具体的にどのような内容を示していたのかを調べるとともに、いかに解されてきたのかを調査した。 それと合わせて、ヘーゲルやダントーがそれぞれの立場から「芸術の終焉」を論じてきたことへの整理と確認や、昨今の実際の作品解釈を通じて、現代との接着面においてどのような関係が見出せるのかも検討した。 また、2019年国際プラトン学会の国際会議に参加し、各国の研究者の方々から、プラトンにおける「ムーシケー」や「ミメーシス」概念に関する有益なご意見をお伺い出来たことや、研究の方向性に関する貴重なご意見を頂戴出来たことなどの収穫があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題において、当該年度は初年度であったため、当初より研究の基盤を固める作業がメインとなる予定であった。その通り、従来の研究内容の整理や、文献収集、さらに用語や文献データ等のデータベース化などを進めることが出来た。この地固めをすることで、今後の研究がさらにスムースに進められるため、初年度の経過としてはおおむね順調に進展していると考えている。 また、国際プラトン学会への参加や各種学会への参加により、研究者との交流の中から様々な有益な情報を得ることが出来た。このことにより、今後の研究をどのような方向で進めていくべきなのか、その指針が得られた。こうした収穫も、今後の研究にとって非常に有意義なものであると考えられる。 ただし、新型コロナウィルス関連で、大学施設内に入る機会を逸し、そのためにデータベース化の一部がスケジュールを押したことや、資料の閲覧ができない部分が発生したこともあった。しかし、別のやり方で遅ればせながらも研究を進めている状況である。 具体的には、プラトンやアリストテレスにおける「ムーシケー」や「ミメーシス」概念の再検討、また悲劇や喜劇、ラテン文学等の中から垣間見られる当時の世相による「ムーシケー」の解釈や変遷を概観した。さらに、逆方向から、現代における「アート」の解釈が各研究者によっていかになされているのかも検討した。こうした中で、多少の傾向性というものが見えてきた。そこには、プラトンやアリストテレスがなしている「テクネー」の分別の問題が横たわっているように伺える。 このように、初年度は基礎的な研究に終始したが、こうした地固めによって、後続の研究がスムースに進められると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、これまでの研究成果をもとに、具体的な論文制作につとめ、全体の研究を仕上げていくことに専念したいと考えている。ただし、新型コロナウィルス関連で資料の閲覧に限界があることなど、実際の研究上、通常時より手間のかかる部分が発生してくるため、どれくらいスムーズに研究を進めていくことが出来るのかは不明であるが、入手可能な資料の中で、進められる研究を部分的にでも進めていこうと考えている。 具体的には、初年度の研究により明らかとなったムーシケー概念の大きな歴史的推移をもとに検討を進めていく。西洋の二元論的思考から多元的な思考への変化にも着目しつつ、ムーシケー概念の変遷を明らかにしていく。これは、前回の科研課題テーマ「アウグスティヌスDe Musicaへと繋がるムーシケー概念の歴史的変遷」において、明らかにした中世におけるmusica概念にも接合する内容である。 また、逆に、ダントー以降の現代芸術に対する研究や、そうしたものの中に以下に古代的な概念を読み取ることが出来るのかという試みもなしていきたい。 さらに、上述のように、古代におけるテクネーの問題が大きなカギとなるため、その周辺の問題にも触れつつ、論文制作につとめたいと考えている。 要するに、古代・中世の概念と、現代的思考との接合面、ならびに、古代から現代への推移に着目した研究を、今後は進めていきたいと考えている。全体として、研究成果をいくつかの論文制作という形で発信できればと考えている。
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Causes of Carryover |
おそらく、当該年次の最後において、新型コロナウィルス関連で施設に入構できなかったことがあり、当初予定していただけの文献購入や入力処理が進まなかったことが挙げられる。しかしながら、持ち越した分は、次回大学に業者が入構可能となった際に納品請求してもらえる予定であり、かつ、こちらで既に購入済みの領収書等の処理が可能であれば、それらの請求も可能である。いずれにせよ、すでに使用の目途はたっている。
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