2020 Fiscal Year Research-status Report
古代哲学からのムーシケー概念に基づく芸術考現学―「今日の詩学」の可能性を探る
Project/Area Number |
19K00038
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
小川 文子 学習院大学, 文学部, 講師 (10726582)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 哲学 / 古代ギリシア哲学 / 芸術 / 芸術哲学 / 美学 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代の芸術解釈は多様であり、また、芸術的価値というものが何であるのか把握しづらい。しかし、我々は芸術とそうでないものとを分かとうと試みることがある。そこには、我々人間が感じ取ることのできる、両者が有する差異があるからに他ならない。従来の研究でも、芸術について様々な解釈がなされてきたが、本研究では、古典文献に立ち返ることにより、古来から変わることなく我々の有している価値基準の核となるものを探る。例えば、アリストテレス『詩学』を通して、批評とは何であるかを問い、批評が捉えるべき価値を明らかにする。また、脱構築を経験した芸術概念の意味を反省的に捉えた上で、更に新たな哲学的観点からそれを捉え直す。 昨今では、様々な対象に対して「スペクトラム」として捉える関わり方が目立つ。この現象が芸術においてもなされているように感じる。ダントーが提示した「多元主義」とは異なる、ぼんやりとしたグラデーション的な何かが芸術を取り巻く新しい時代が到来している。しかし、ここで問題となるのが、それでは、芸術か否かを決めるものは、たとえば資本主義における資本的な価値なのか、それともそれ以外に純粋に芸術が目指すべきものが美のイデアのようにあるのか、という問題である。 本研究は、現状、芸術に関する価値の所在がどこにあるのか、はたまた芸術的価値をそもそも判断することが可能なのかという問題を、いわばメタ美学的に捉える試みを行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において、これまで検討してきた、批評の問題や古典ギリシア的な美のイデアの問題などを最終的にどのような形でまとめるかという方向に、一つのまとまりが見えてきた。概要においても記したとおり、本研究は最終的に分析美学もしくは、新たにメタ的な観点から関わる、いわばメタ美学、もしくはメタ芸術哲学のような、大きな枠組みの中に置かれるものとなるだろう。その中で、芸術の目指すものを何と呼べばよいのかはここでは問わないにしても、その何らかの価値が、この世界の中に存在するのか(つまり、資本主義的な社会構造の中で求められる何らかの価値として、決して普遍的ではない何かとして存在するのか)、はたまたこの世界の中には存在せず、古典ギリシア的イデア界や叡知界といった絶対的な領域において、普遍的な価値として不動のものとして存在しているのか、そのような問題を問う議論となる見通しである 現在は、複数のテーマで論文を執筆中であり、進展としてはおおむね良好である。本来ならば、本年度中に論文発表に至れれば良かったものの、タイミングが合わず掲載を見送ったので、次年度に持ち越すことにした。
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Strategy for Future Research Activity |
2021度が、本研究課題の最終年であるため、ここまでに蓄えてきた情報をまとめ、今後、複数のテーマで論文を発表する予定である。また、それら論文をさらにまとめた、研究の全体を著作等の形で発表できればと考えているが、それには時間が足りないと考えられるため、本研究においては、できるだけ多角的に芸術の問題を捉え、今後の研究に備えていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、遠方への移動や現物を見ての書籍購入等が発生せず、計画通りの支出とはならなかった。しかしながら、逆にPCやプリンターを酷使するような事態になり、研究環境に不具合が生じつつあるため、次年度、そのようなインフラを整えるための支出にプラスする可能性がある。また、次年度が最終年度のため、当初より、ピンポイントに必要な研究書が発生してくるため、それらの購入に当てる予定である。
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