2021 Fiscal Year Annual Research Report
古代哲学からのムーシケー概念に基づく芸術考現学―「今日の詩学」の可能性を探る
Project/Area Number |
19K00038
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
小川 文子 学習院大学, 文学部, 講師 (10726582)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 哲学 / 美学 / 芸術哲学 / 古代ギリシア哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、古代のムーシケー概念を紐解くことにより、かえって現代の「芸術」ならびに「アート」の概念を考えるものである。昨今のアートは、アーサー・ダントーが指摘した通り、多元的なものであり、多種多様なスタイルで展開されている。果たして、どこからどこまでがアートで、どこからがアートではないと言えるのか、そういった判定自体が可能であるのかも不明瞭である。アートは自己限定的ではなく、日々、自己定義を追究せねばならない対象とされている。しかしながら、古代においては、プラトンもアリストテレスも、観点は違えど、道具の製作と芸術の制作とを分別している。したがって、芸術とそうでないもとのを何らかの尺度で峻別しているのである。本研究では、このような古代のムーシケー概念を検討することによって、現代の混線したアート概念にある種の道筋を見出すことを目的としている。最終年度に当たる今年度は、特に、ピュタゴラスやアリストクセノスの音楽理論、またプラトンの宇宙論を用いながら、射程の広いムーシケー概念の本質を検討した。また、対して、アリストテレス『詩学』において論じられる「悲劇に固有の快」についても検討した。アリストテレスは『詩学』において芸術制作の何たるかを模索しているが、ここで対象とされる悲劇などの文芸は決して「ムーシケー」と呼ばれることはなく、かつてムーサの女神が司っていた詩作は、アリストテレスにおいては、詩人の手によって制作されるものとされた。芸術の芸術性はまさに制作者の技によって達成される。その中でも特に悲劇は、詩人の手による綿密な構造により、「固有の快」を達成することが可能なものとして抽出される。詩作は模倣として、その他の芸術と共通の快を達成しつつも、「悲劇に固有の快」を目指すことにより、まさに固有性を有する。こうした芸術観を1960年代アメリカのアートシーンなどとも絡めて検討した。
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