2019 Fiscal Year Research-status Report
身体のパフォーマティヴ性から見た現象学の臨床的展開
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19K00044
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
稲垣 諭 東洋大学, 文学部, 教授 (80449256)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | パフォーマティヴ性 / 現象学 / メルロ=ポンティ / 魔術 / 技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、個体としての人間を織りなす身体及び精神の複合的なシステムの変容のモードに関して、現代演劇や芸術におけるパフォーマティヴ性への着目を手がかりに解明することである。 本年度は、パフォーマティヴ性という概念の内容を巡って、人間であるホモ・サピエンスにとって固有な行為可能性を特徴づけているものが何であるのかの文献的な調査を主に行った。 現代は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートに典型的なように、どのような演劇的、芸術的行為であっても社会性や政治性との接合を意識することを要求される時代である。とりわけ精神的な病理にとっても社会関係の問題が反映されることは当然あり、その場合には社会性の回復が病理からの回復と相関する。とはいえ、他方ではそうした社会関係が改善することとは独立の病理も存在する。とりわけ、身体の運動機能の障害はそうである。そうした病理の追求は、SEAに典型的な社会関係に縛られたパフォーマンスの実行では届かない領域を明らかにしうる。 そのために、本年度はアーティストの荒川修作や哲学者のニーチェ、及び現象学のメルロ=ポンティの試みを精査することを行った。しかもその際、人間のパフォーマンスの問題を現象学者フッサールの最後の課題ともいえる「幾何学の起源」という極めて壮大なテーマに包括する形での展開となった。とりわけ、荒川やニーチェの研究からは、人間のパフォーマンスがそれ以外の動物とどう異なっており、何が人間であることを決定づけているのかに関して、先史時代から近現代にかけて起きた技術革命との関連において明らかにする方向性が打ち出せた。また、メルロ=ポンティが身体論を展開する際に用いる「魔術」的行為の内実から、身体のパフォーマンスを変容させる手がかりが見出せるかどうかを検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
資料やテクストの収集、取り組むべき課題に問題はないが、現代演劇のパフォーマティヴ性の調査のためにインタビュー等を予定していた劇団に社会的な問題が生じ、その試みを中止せざるを得なくなった。さらにコロナウイルスの感染拡大による自粛要請のために、分析したい舞台関係の調査が今後さらに滞る可能性がある。 また、人間の行為に関わるパフォーマティヴ性の分析は、行為そのものを可能にしている時代時代の技術的環境と切り離すことができず、ハイデガーやデリダといった現象学関連の哲学者が技術の問題をどう理解していたのかの調査も行う必要が出てきた。そのため、パフォーマティヴ性そのものの解明ではなく、迂回しながらそこに近づいていく方法にならざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は、コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が行われており、とりわけパフォーマティヴ性の分析に不可欠な舞台芸術が軒並み公演中止に追い込まれている。そのため、そうした舞台の観劇や稽古等の実践的な取り組みに関する調査は行わずに、文献収集や分析に重点を置いた研究へと方向を切り替えたいと思っている。
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