2021 Fiscal Year Annual Research Report
身体のパフォーマティヴ性から見た現象学の臨床的展開
Project/Area Number |
19K00044
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
稲垣 諭 東洋大学, 文学部, 教授 (80449256)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | パフォーマティヴ性 / 内的経験 / 生 / 現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度から引き続き、コロナ感染増大の影響により対面的活動が大幅に制限されていた。その影響は身体性のパフォーマンスに関わる演劇作品においても、リハビリテーションや精神医学に関わる臨床経験においても同様であった。こうした大幅な制限下にありながらも現象学的な身体と経験の拡張に関わる研究を継続した。 現代哲学における現象学的アプローチは、主体性と地続きとなった世界の経験を浮き彫りにするものだが、そうした試みや記述は一度で完了するものではない。科学や芸術に関わる多彩な外的指標を手がかりに、内的経験を持続的に何度も更新していく必要がある。そのプロセスの中で主体とその身体性は、眼差しや行為、振る舞いのレヴェルからパフォーマティヴに変化することになるからである。本年度は最終年度でもあることから、「パフォーマティヴ性の現象学」を展開するための手続きを明確化することを試みた。とりわけ、内的経験はどのように言語を尽くしても明示することはできない。むしろその「内的経験の不確定性」を、現象学的な記述を展開する積極的な動力として活用する必要がある。そうすることで初めて経験は多彩化され、複雑化し、新しい経験の隙間が生まれるからである。この試みは、現象学的アプローチそれ自体をプラグマティックに、臨床的に、手続き化することでもある。 それに加え理論的であり、臨床的な知でもある「病識」概念を歴史的に解き明かす中で、それが医療者側から患者に対する権力的な知となりうる可能性を指摘すると同時に、知の強要に抵抗する権利から何が見えてくるかを考察した。また、荒川修作の建築的なアートプロセスの中から、「死の恐怖」とその絶対的な疎隔化である「不死」あるいは「絶滅」という両極端な概念を手がかりに、私たちの「生」そのもののパフォーマンスがどのように変化するのか、それが個体的な生そのものの変容につながるのかを検討した。
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