2023 Fiscal Year Annual Research Report
Biopolitics and Social Philosophy in the Times of Anthropocene: Critical Intervention in Climate Justice
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19K00050
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Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
箱田 徹 天理大学, 人間学部, 准教授 (40570156)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 社会哲学 / 気候変動 / 環境 / 社会運動 / 現代思想 |
Outline of Annual Research Achievements |
21世紀前半の現代社会では、加速する気候変動が地球に劇的な変化をもたらし、人間だけでなく生態系そのものが危機に瀕している。この危機的状況に、市民社会と哲学思想研究はどう対応するのか。この問いを出発点として、本研究では西ヨーロッパ(特にドイツ)における気候運動の議論と実践を具体的な事例から紹介・検討し、その思想的背景の解明に取り組んだ。パンデミックやウクライナ戦争という研究開始時には予測しえない世界史的展開のなかで、緩和と適応を通じて1.5℃目標の現実的な実現可能性を守るには、現代の資本主義システムの抜本的変革が必要であるとの認識が広まると同時に、そのような危機は、現行の政治経済社会文化体制を変革せずとも技術革新によって回避可能だという言説を支持する産業界や政治の力が強まった。このような状況で、気候変動に関する思想研究は、人文学と社会科学の最新動向をつなぐ結節点として機能していることが研究を通じて明らかになった。本研究の具体的な意義と重要性は、①日本における「採取主義」の議論を紹介する役割を果たしたこと、②ラディカルな気候運動の実践が、非暴力直接行動や市民的不服従の歴史と現在を活性化させ、歴史学、社会学、哲学などにおける抵抗、実力闘争、暴力、権力といった主題群の再評価につながっていること、③諸外国に比べて気候変動の影響の受け止めが遅れている日本において、統治論や生政治論といった社会哲学的な概念を援用しつつ、気候変動が哲学的・思想的な喫緊の課題であることを示したことである。
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