2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K00058
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Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
川尻 文彦 愛知県立大学, 外国語学部, 教授 (20299001)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 清末思想 / 明治日本 / 思想連鎖 / 辜鴻銘 / 東西文明 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度内に『清末思想研究ーー東西文明が交錯する思想空間』(東京大学大学院総合文化研究科、論文博士、2020年7月)を完成させた。同博士論文には本研究課題である辜鴻銘に関する論稿が1章を割いて収録されている。この1章は東西文明が交錯する思想空間として清末思想を考えた時、辜鴻銘にはどのような思想的な位置が与えられるのかといった問いにこたえることを目指している。辜鴻銘自身はきわめて独特な観点で、東西文明を位置づけている。しかも1920年代の日本訪問に際して行った講演では日本思想を視野に入れた東西文明論を展開している。中国近代思想における東西文明の比較の観点について、辜鴻銘はさまざまな研究材料を提供してくれる。私たち研究者にとっては、辜鴻銘を通じて清末思想を理解し、また同時に清末思想を通じて辜鴻銘を理解するといった「往還」的な研究作業を行った。2020年度内の既表論文では、「李大釗の「青春」について」(『愛知県立大学外国語学部紀要』第53号、2021年3月、322-342頁)があり、李大釗の初期思想についてミクロな分析を行った。李大釗思想のその後の発展、つまり李大釗がその後、どのような過程でマルクス主義者になっていくのかを実証的に追跡するための基礎作業になるであろう。「五四を思い起こす」(『中国研究月報』867号(第74巻第5号)、2020年5月号、中国研究所、2020年5月、41-45頁)は東京で行われた五四新文化運動シンポジウムの総括的な文章である。日本における五四新文化運動の研究状況を確認したうえで、今後の研究の方向性を示唆したものになっている。辜鴻銘研究がいかにあるべきかを考える素材になろうかと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
辜鴻銘の東西文明観をより明確にするための補助作業として、清末思想の中に辜鴻銘を位置づける必要性を感じた。そのため、まずは私の博士論文『清末思想研究ーー東西文明が交錯する思想空間』の完成を急いだ。同博士論文の中には辜鴻銘についての論考も含まれている。中国近代思想を東西文明が交錯する空間として捉え、中国思想の内在的な発展を重視しながら、明治日本との「思想連鎖」を追跡する作業も並行して行った。辜鴻銘そのものを分析対象とした論稿は2020年度内に発表出来ていないが、私としては辜鴻銘に対する研究関心はつねに持ち続けている。研究作業の段取りの都合上、辜鴻銘の「周辺」的な事柄、辜鴻銘をより全面的、総合的に解明するための「外堀」を着実に埋めていく作業に専心したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
辜鴻銘についての研究を進めるに当たって、辜鴻銘の「周辺」の思想状況を丹念につぶしておくことが有効であると感じている。というのは、辜鴻銘は「孤高の思想家」という側面が強く、辜鴻銘だけを見ていては辜鴻銘思想の解明にはつながらないとの感を強くしたからである。東西文明に対する辜鴻銘の独特な観点は、同時代の知識人による豊富な「周辺」的な思想と対照させることにより、より明確化する。そのため迂遠ではあるが、本年は以下のような研究課題について検討を加えたい。一つは、辜鴻銘が1920年代に来日した時、辜鴻銘の言論が日本のアジア主義に対して一定の影響があったことはすでに指摘がある。清末以来の日本のアジア主義はいかなるものであったのか、日清文化交渉の観点から検討を加える。二つ目は、辜鴻銘が在籍した新文化運動時期の北京大学は急速にマルクス主義の影響力が急速に強まった時期でもある。中国の思想界における社会主義の持った意味について、清末以降のいわゆる初期社会主義から1920年代まで長いスパンで考えてみたい。三つ目は辜鴻銘が精力的に行った中国伝統思想の再評価の仕事について。近代における伝統思想の再評価(その逆の激しい批判)について中国、日本の比較の観点から検討を加える。例えば、福澤諭吉の激しい儒教批判の内実について再考する。そのことが新文化運動時期の激しい儒教批判を考える上で参考になるのではと思われる。
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Causes of Carryover |
5275円を次年度(2021年度)に繰り越し。この金額(5275円)に見合った研究遂行に必要な物品が思い当たらなかったため、次年度に繰り越し、研究活動のために有効に使わせていただこうと考えた。
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