2023 Fiscal Year Research-status Report
A Synthetic Study of Prenatal Diagnosis in Islam: Discussions of Selective Abortion and the Disabled
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19K00077
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
青柳 かおる 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (20422496)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | イスラーム / 出生前診断 / 婚前スクリーニング / 人工妊娠中絶 / 結婚 / サラフィー主義 / イラン / サウジアラビア |
Outline of Annual Research Achievements |
イスラームにおける出生前診断の可否および胎児に深刻な障害が確定した場合の中絶の可否、さらに障害者、弱者の現状といったテーマについて研究を進めてきたが、2023年度は、イラン(シーア派)とサウジアラビア(スンナ派)における出生前診断、婚前スクリーニングを取り上げた。中東には、近親婚に伴うサラセミアという遺伝性疾患の患者が多いとされており、婚前スクリーニングが行われている。 スンナ派のファトワー(法的回答)によると、出生前診断はイスラーム法的に合法である。胎児に深刻な障害がある場合、中絶は可能であるが、1)入魂前(受精から120日まで)であることと、2)深刻な障害があることといった正当な理由があることが条件である。ただし具体的な疾患名については不明であった。障害をもつ子どもを産み育てることは神の意志であるとして推奨するファトワーも見られた。出生前診断を受けたサウジアラビアの女性たちへのインタビュー記事も参照し、診断で胎児の障害が確定し中絶した女性たち、産み育てた女性たちの声を取り上げた。 シーア派においては、胎児が障害をもつという理由だけでは、いかなる段階でも胎児を中絶することは許されないとするファトワーが出ているが、遺伝性疾患に関しては、中絶を可能とするファトワーが発出された。2005年には重症型サラセミアや血友病以外にも重篤な胎児の中絶が許可されている「選択的人工妊娠中絶法」が可決された。 また現代のイスラーム思想において大きな影響力を持っているサラフィー主義について、古典時代のガザーリーの哲学的要素(存在一性論の影響など)に対する批判を取り上げた。そして現代の法学者が根拠とするサラフィー主義の先駆者である中世のイブン・タイミーヤ、ザハビーによる批判を分析した。さらに出生前診断、人工妊娠中絶といった問題を含む、総合的な生命倫理の著書の執筆を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イラン(シーア派)とサウジアラビア(スンナ派)における出生前診断、婚前スクリーニングに関するファトワーをまとめ、先行研究も参照しながら、胎児に遺伝性疾患が生じる可能性のある当事者たちの声も紹介することができた。また現代のサラフィー主義者のガザーリー批判を取り上げ、現代イスラーム思想の一端を明らかにできた。以上については2本の論文を発表できた。さらに生命倫理をテーマとする著書の執筆も開始した。
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Strategy for Future Research Activity |
生命倫理をテーマとする著書の執筆を進めるとともに、イスラーム世界のマイノリティ(とくに同性愛者)の研究にも発展させていきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により旅費の支出がほぼなかったため、次年度使用額が生じた。今後は出張を行う予定である。
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