日本における障害者自立思想の覚醒と大仏空の宗教思想との関連の宗教学的検討

2019 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 19K00082
• Research Institution: Shimane University
• Principal Investigator: 山崎 亮 島根大学, 学術研究院人間科学系, 教授 (40191275)
• Project Period (FY): 2019-04-01 – 2022-03-31
• Keywords: 大仏空 / 「青い芝の会」 / 障害者自立思想と宗教 / 横塚晃一 / 横田弘

Outline of Annual Research Achievements

本研究は、仏教者大仏空(1930-84)の宗教思想を解明し、日本脳性マヒ者協会「青い芝の会」（以下「青い芝」）の障害者自立思想――'70年代、日本ではじめて障害当事者がみずから思想的な自己主張を行なった――に対するその影響を構造的に明らかにすることを目的としている。
2019年度は、6月に、神奈川県立図書館と国立国会図書館にて文献調査を実施し、他では閲覧できない「青い芝」の機関誌『青い芝』ならびに「青い芝」神奈川県連合会の機関誌『あゆみ』、また花田春兆主宰の文芸同人誌『しののめ』の記事を総覧し、「青い芝」の中心人物であった横塚晃一と横田弘ならびに大仏に関連する資料を収集した。この作業を通じて、そのラディカルな運動の具体像があらためて浮き彫りになってきた。
一方で、大仏空の実娘である増田レア氏によって、大仏が20代で著したと推測される『聖道　念佛義抄文』の小冊子が新たに見つかり、8月には、増田氏が主催してマハラバ文庫で開催された「新解放理論研究会」で、この小冊子の解説を試みた。この間、若林克彦『軌跡　青い芝の会――ある脳性マヒ者運動のあゆみ』（私家版、1986）のコピーを入手し、'60年代から'70年代にかけての「青い芝」の内情に関する当事者の視点からの回顧を検討した。さらに2020年3月には、大仏の蔵書が保管されている横浜の貸倉庫に赴き、増田レア氏の立ち会いのもと、大仏の蔵書が詰められた73箱に及ぶ段ボール箱をすべて開封し、蔵書のタイトルを撮影した。大仏の自筆原稿こそ発見できなかったものの、蔵書傾向や書入れ等を精査することで、彼の思想の一端に触れることができた。また、撮影したタイトルに基づいて、大仏の主要蔵書目録を作成中である。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

研究実施計画の第一段階に位置づけている、関連資料の収集という面で、着実な進展を見せている。一般には閲覧が困難な『青い芝』などの機関誌を総覧するなかで、橫田と横塚を中心とした'70年代「青い芝」の活動の内情がかなり具体的に把握可能となり、大仏空に関しても、『聖道　念佛義抄文』の発見は、その内容は難解ながら、彼の宗教思想の解明にとって一歩前進となる大きな収穫である。また、8月に出席した「新解放理論研究会」で、録音された大仏の生前の肉声に接し、当時のマハラバ村に参加していた当事者の方々に直接話を伺うことができたのも、大仏の思想を解明する上で貴重な体験であった。

Strategy for Future Research Activity

1)大仏空関連の資料収集を継続する。具体的には、横浜市の障害者活動センター「きょうの会」の事務局に保管されている故横田弘の蔵書を調査し、大仏関連の資料を探索する。ただし、新型コロナウイルスの影響で、いつごろ調査できるようになるかは現時点では未定である。また、作業継続中の大仏の主要蔵書目録を完成させる。
2) 1)をふまえて、大仏の宗教思想の解明を進めていく。親鸞の『歎異抄』に淵源する独自の現実肯定の視座がいかにして生成してきたか、その理路をたどりたい。その際、戦前の浄土真宗の皇道教学に見られた現実肯定の視座――近年、政治学者中島岳志らの研究でクローズアップされつつある――との対比、他方で、福祉の思想としては、糸賀一雄らによる発達保障論――障害者の現実肯定を否定する方向性を含む――との対比も試みたい。
3)昨年度、『青い芝』や『あゆみ』等から収集した多くの一次資料を整理・精読し、橫田や横塚の障害者自立思想生成のプロセスを追跡する作業を開始する。