2023 Fiscal Year Annual Research Report
日本における障害者自立思想の覚醒と大仏空の宗教思想との関連の宗教学的検討
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19K00082
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
山崎 亮 島根大学, 学術研究院人間科学系, 教授 (40191275)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 大仏空 / カトリック / 念仏 / 横塚晃一 / 横田弘 / 「青い芝」の行動綱領 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、宗教家大仏空(1930-84)の思想構造を解明し、日本脳性マヒ者協会「青い芝の会」(以下「青い芝」)の障害者自立思想に対するその影響を明らかにすることを目的としている。 この目的の達成に向けて本研究では、大仏の息女増田レアさんの全面的な協力のもと、『青い芝』や『あゆみ』、『しののめ』、『親鸞』等、現在ではいずれも稀覯の雑誌類を探索し、さらには大仏や横田弘の蔵書も調査した。この結果、大仏の処女作『聖道 念仏義抄文』や「最大の念仏者 キリスト」等、大仏の宗教思想の中核をなす著作、さらには横塚晃一の主論文「ある障害者運動の目指すもの」に大仏が註記したパンフレット『CP解放運動のめざすもの』等々、これまで未知だった大仏の著述を11点収集することができた。また折本昭子や若林克彦、二日市安等、60~70年代の「青い芝」当事者の証言も検討した。これらの成果は2021年度以降、「大仏空著作集」(一)~(三)として順次公表してきた。 これを踏まえて本年度は、大仏の宗教思想と「青い芝」との関連を、テクストに即した形で検討・考察した。大仏は天台宗の古刹願成寺の出身でありながら18才でカトリックの洗礼を受け、児童養護施設等で働きながら各地を放浪していたが、20代半ばで願成寺に戻り、父の死後その住持となる。おそらくはカトリックの信仰と住持としての立場の折り合いを付けるべく、本来は阿弥陀如来への帰依を意味する「南無阿弥陀仏」の念仏に「限りなく自己に目覚める」という独自の解釈を施し、他方で「絶対者」に向けての叫びとしての意味をも念仏に付与する。さらには「隠れたる神」である「絶対者」への叫びとしての念仏を、「救い」を求めぬ「絶えざる問題提起」と捉える。このような大仏の宗教思想の延長線上に、「われらは自らがCP者である事を自覚する」に始まる「青い芝」の行動綱領が成立したことが明らかとなった。
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