2020 Fiscal Year Research-status Report
「知的障害者との共同生活」運動における多元的「宗教性」のケア学への貢献可能性
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19K00087
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Research Institution | Professional Institute of International Fashion |
Principal Investigator |
寺戸 淳子 国際ファッション専門職大学, 国際ファッション学部, 准教授 (80311249)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 宗教学 / ケア / 障害者 / 共生社会 / 市民貢献活動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、コロナ禍の影響が予想以上に深刻で長引いたため、アジア圏で計画していた海外調査を進めることができなかったが(遠隔での調査の可能性を考えていたバングラデシュの共同体は、調査の協力をお願いできない状況にあった)、調査協力者が所属団体を通して定期的に伝えてくる情報によって、現地の様子や共同体での精神生活について、当事者の自発的な表現を通して知ることができた。昨年度調査したフィリピンの共同体とは、オンラインで実施された「共同体創設記念日の催し物」に参加し、また本年度の研究実績である英語論文をお送りするなど、今後の調査に繋がる交流が続いている。また、新たな海外調査が困難な中、若者の海外人道支援をサポートするフランスの団体〈インテルコルディア〉に提出された学生の成果論文の収集と分析から、ケアの領域における若者の「異文化(宗教的世界)体験」の研究の可能性を探っている。〈インテルコルディア〉、国際ラルシュ本部、過去に調査させていただいたカナダとイギリスのラルシュ共同体の関係者にも、上記英語論文をお送りするなど、研究の継続とそのフィードバックを続けている。計画されていた文献資料収集と分析を継続し、論文執筆と学会発表を通して成果を公表した。 本研究の主題である、「市民性」と「宗教性」が応えることができるもの(それらに求められるもの)の違い、および、その違いが現代社会において持つ意味について、本年度は「排除・差別」という切り口から考察を深めることができた(成果論文を準備中)。コロナ禍が、「排除・差別」のうねり(欲望)に対する市民社会の弱さを露わにした現在、「それを補完するのが宗教性(慈愛)である」という発想で終わらせず、「市民性」と「宗教性」が人間の「尊厳」を守るという課題に、それぞれどう資するかを考察するところに、本研究遂行の意義があると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新たな海外調査対象として予定していた共同体が、バングラデシュの共同体だったため、コロナ禍の影響が予想以上に深刻で、遠隔でも調査のお願いが難しい状況であった。また、インドの共同体との仲介をお願いする予定だった日本の共同体も困難な状況にあったため、落ち着くのを待っていたが、インドの現状から見通しがたたなくなっている。このため、アジアの共同体に調査対象を広げることで「欧米の社会理論と価値観を中心に構想されてきた「インクルーシブ」観を見直す」という研究計画の遂行には、残念ながら遅れが認められる。その反面、「「討議」に価値をおく市民社会」が「恐れ」と「欲望」への対処という観点からは十全な方策をとれていない現状の省察を通して、市民社会における「宗教性」の意義の考察には進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
状況が好転しなかった場合も実現可能な研究計画として、ラルシュ共同体の創設者ジャン・ヴァニエと共同体の第一世代が書いた体験記の分析に基づき、非欧米圏での共同体創設を主導した第一世代の方々への、遠隔でのインタビューを行う可能性を探っている。また、2019年度にフィリピンの共同体調査にご協力下さった、フィリピン共同体の創設メンバーへの集中インタビューを計画している。
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Causes of Carryover |
予定していた海外調査が全くできず、国内での出張調査も控えたため、研究予算の多くを占めていた旅費分が使用されなかった。2021年度は、国内調査と、当初予定していなかった資料の収集に予算を充てる予定だが、海外調査の実施も諦めずに可能性を探る。
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