2023 Fiscal Year Research-status Report
「知的障害者との共同生活」運動における多元的「宗教性」のケア学への貢献可能性
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19K00087
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Research Institution | Professional Institute of International Fashion |
Principal Investigator |
寺戸 淳子 国際ファッション専門職大学, 国際ファッション学部, 准教授 (80311249)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | キリスト教 / ケア / 共同体運動 / 知的障碍者 / 「性/死」 / 市民社会 / フランス / カトリック |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度までの研究成果から導き出された今後の三つの課題、①キリスト教における「性愛」の「聖化/拒絶」の表裏一体性の歴史的研究、②そのような人間観をもつキリスト教文化圏に生まれた「人間の尊厳」概念の問題点の研究、③これらの研究を、「「依存関係」を評価する現代ケア学を参照することで、自律性神話(社会契約が可能な理性的個人)に基づく「社会契約」概念を批判的に検討する社会・倫理思想」にフィードバックする、のうち、今年度は③に関連する「ケア学」のカトリック的展開を中心に研究を進めた。「統合的エコロジー」概念を掲げ、「ケアの文化」(社会契約論に基づく正義論に対する批判的視座としての意義を有する)を提唱するフランシスコ教皇回勅『ラウダート・シ』(2015年)と、そこで提示された目標の実現に向けた7カ年計画〈ラウダート・シ・アクション・プラットフォーム〉(2021~2027年)の調査・分析を進めるなかで、2023年11月24~26日にフランスのリヨンで開催された〈Semaines Sociales de France〉(フランス〈社会週間〉。〈ラウダート・シ・アクション・プラットフォーム〉の前史に位置づけられる、カトリック教会の社会教説に応える平信徒活動)第97回大会(大会テーマは「『ラウダート・シ』の実践としてのエコロジー」)にオンライン参加し、大会執行部とつながりを持ったこと、また、詳細な大会記録の分析を進められたことが有益だった。 また課題①については、〈ラルシュ〉国際本部の前責任者から、創設者ジャン・バニエと〈ラルシュ〉のアーカイブ(ジャン・バニエ・センター設立のために諸記録・資料が集められたが、バニエの性的ハラスメント事件のために計画が中断し、現在公開のめどが立っていない)を保管しているカナダの研究者を紹介され、資料へのアクセスの道が開かれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『ラウダート・シ』で提示された「ケアの文化」について、フランス〈社会週間〉の大会を通して具体的に研究を進められたことは大きな成果であり、〈ラウダート・シ・アクション・プラットフォーム〉に関する知見も深まった。特に、「ケアの文化」について、フランスの関連領域の専門家とカトリック・アクション(カトリックの平信徒活動)の人々の間で議論が交わされる現場を見聞きできたことは、「宗教性」と「ケア学」の関係を考察する上で有益であった。 また、〈ラルシュ〉共同体運動の世界的な展開を跡づける上で重要なアーカイブへのアクセスの道が開かれたことも、大きな前進だった。さらに、〈ラルシュ〉共同体では、創設者ジャン・バニエによる長年の性的ハラスメント問題を乗り越え、共同体としての在り方・意義を見直すことが最重要課題となった結果、創設者バニエの威光・イメージや言説に依拠しない共同体像の提示が行われるようになった。その結果、本研究の当初の研究課題であった「〈ラルシュ〉共同体運動の多元的「宗教性」」が、共同体内部でも重視されるようになった可能性が見えてきたことは、予期していなかった肯定的な展開であった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記研究実績概要に記した研究を継続、発展させる。このため、フランス〈社会週間〉本部での現地調査と、カナダで保管されている〈ラルシュ〉関連資料の調査を行う。また、課題②(「性愛」を「聖化/拒絶」する人間観をもつと推測される)キリスト教文化圏に生まれた「人間の尊厳」概念の問題点の研究についても、世界人権宣言75周年を機に2024年4月8日に教皇庁教理省によって発表された文書『ディニタス・インフィニタ』(人間の尊厳をテーマとする)が、この研究に非常に重要な意義を持つと考えられ、その分析を進める。この文書は『ラウダート・シ』と相補的な関係にあるだけでなく、そこで提示されている「人間の尊厳」は、「性/死」(生殖医療、中絶、同性婚、性適合技術、尊厳死など)について、同時代の「世俗的倫理観」と乖離しているという指摘があるため、その分析を通して、カトリック的「ケアの文化」と、社会契約説を批判する視座としての「ケア学」の比較検討を行い、課題③の研究を進めることができる。
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Causes of Carryover |
〈ラルシュ〉共同体創設者ジャン・バニエと〈ラルシュ〉共同体のアーカイブ(カナダ・オンタリオ州、ウエスタン大学キングス・ユニバーシティー・カレッジのPamela Cushing氏が管理)、および、パリにあるフランス〈社会週間〉本部(18, rue Barbes, 92120 Montrouge)での調査を予定していたが、受け入れ先との2023年年度内での日程調整がつかず、年度内に実施できなかったため、次年度使用が生じた。
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