2020 Fiscal Year Research-status Report
Women's Self-Discovery in Late Antiquity
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19K00096
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Research Institution | Nara University |
Principal Investigator |
足立 広明 奈良大学, 文学部, 教授 (30412141)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ジェンダー / エージェンシー / 女性 / 個 / asceticism / Modesty / 古代末期 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度はコロナ禍のため、当初研究発表を予定していた二つの国際学会がいずれも学会自体キャンセルとなり、将来に見送らざるを得なくなった。また、学内オンライン授業準備で忙殺され、十分な研究時間を確保することができなかった。しかし、一昨年度の国際学会発表に基づく論文がピュア・レヴューを通過、初校提出の運びとなった。(XVIII. International Conference on Patristic Studies Oxford19 August - 24 August 2019)。論文名は"I Baptize Myself in the Name of Jesus Christ: The Female Apostle Thecla and her Self-Decision before God"(Subsidia Patristica本年掲載予定。巻号、頁は未定につき、10欄は暫定で示した。)また、この間ローマ女性史の基礎的な史料となる『ラテン碑文選集』(corpus inscriptionum latinarum)のうち、イタリア、北アフリカ、ヒスパニア、ガリア・ナルボネンシス各属州の巻を集め、女性たちの社会実体を知るための基礎的作業を進めた。その結果、女性たちは従来考えられていたよりも非常に広汎な影響力を公的に有していたことが明白となった。キリスト教の独身修道女性たちの生きる模範となった使徒テクラはこうした社会的、公的影響力のある女性のアイデンティティ変容過程として読み解くことができるのではないか。古代の伝統的な都市共同体に嵌め込まれて公的役割を担っていた女性が個人として抜け出し、一神教の宗教理念に基づく共同体に参加していく過程を分析し、本年度各種の研究会、学会で報告する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上述のとおり、コロナ禍で国際学会がキャンセルとなったのと、オンライン授業準備で忙殺されたことが最大の要因である。海外での史料収集や情報収集の機会が失われる一方、経験のないオンライン授業準備のため、論文執筆など研究に割ける時間も極端に少なくなった。ただし、海外渡航費用を高額史料購入(上述『ラテン碑文選集』)に当て、基礎的な態勢を整えることができた。本年度はそれに基づいて各種学会発表(国内に振り向け)のほか、成果を活字化して公開する。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように遅れが生じたが、海外発表キャンセルの分の費用を史料購入に充てることができた。とくに、ラテン碑文選集(CIL=Corpus Inscriptionum latinarum)は、ローマ女性の地方社会における公的役割を実証する碑文史料を数多く含むが、これをまとめて購入し、現在学会報告(第71回日本西洋古典学会:オンライン開催、本年6月5-6日開催予定。報告者は6日予定)に向けて精査しつつある。また、これまでの研究を踏まえ、テクラからヒュパティアに至る古代末期女性の公的主体性の確立について、ソーフローシュネー(Modesty)という共通モラルが史料に現れる意味を近年のエージェンシー概念を応用しつつ解読し、全体として見通す研究を公開する。
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Causes of Carryover |
国際学会がキャンセルとなったため、渡航費用と現地調査費用が全額浮いてしまった。しかし、その分は『ラテン碑文選集』など高額史料に替えて有効活用する。ラテン語碑文だけでなく、今年度は申請者の研究するテクラなど東方キリスト教女性の背景となるギリシア語圏のヘレニズム・ローマ時代の碑文史料も随時収集する。また、購入のパソコンが4GBと非常に遅く、作業にも支障をきたすため、メモリを増強するほか、購入当初に予測できなかったコロナ禍で各種学会、研究会がZoomなどで開催されるのに合わせ、カメラとマイクを購入する(現在研究室のデスクトップパソコンには装備がなく、私有ノートパソコンで代用せざるを得ない状況が長く続いてきた)。
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Research Products
(2 results)