2022 Fiscal Year Research-status Report
制度のミクロ現象学による、自然-文化の危機への処方箋ーーメルロ=ポンティから
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19K00100
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
廣瀬 浩司 筑波大学, 人文社会系, 教授 (90262089)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | メルロ=ポンティ / 制度 / 現象学 / プルースト / ヴァレリ / クローデル / 文学言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、文学という制度の研究に焦点を定め、ヴァレリ、プルースト、クローデルらの文学言語がどのような意味で「制度の現象学」に関係するかを徹底的に吟味した。メルロ=ポンティのコレージュ・ド・フランス講義における彼らの文学的営みを徹底的に分析するとともに、そこで扱われる文献、およびそれについての現象学的研究の可能性を探る各種の文献資料をデータ化すると同時に詳細に分析することができた。 その成果として、とくにメルロ=ポンティが「文学」という「フィクション」ないしは「制度」を主題的かつ具体的に論じた晩年の講義草稿の意義を検討した。というのも、五〇年代のメルロ=ポンティは、初期に切り開いた「知覚」という次元を、歴史と自然の緊張関係の場に据え付けながら思考しており、そのとき絵画と並んで、文学言語もまた、重要な位置を占めているからだ。 この分析の結果として、メルロ=ポンティにとって文学言語が、制度の主題と夢幻的なものの主題の交差点にあることを明らかにできた。この視点からさらに、「制度的な無意識」というものについて語ることができる。制度的無意識とは、無意識がすでに社会的なものに規定されていることを意味するのではない。それは現象の背後にあって、意識を操るものではない。それはむしろ意識の眼前に開ける風景に含まれているものであり、そこにおいて「レリーフ」「襞」「リズム」としてのみ、夢幻的かつ間接的に確認されるものである。 研究にあたっては、東京大学塚本昌則教授と情報交換をおこなっており、その成果は水声社から2023年秋に刊行予定の書籍『文学・芸術にとって〈現実〉とは何か?──フィクション、イメージ、身体(仮題)』として刊行される。原稿はすでに受諾済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1)コロナ禍によりフランスでの資料研究が依然としてできず、刊行された孝義録のメルロ=ポンティによるメモを直接吟味することができなかったため、刊行資料の徹底的な吟味に方針を変えたため。 2)メルロ=ポンティの研究会での活動もコロナ禍によりオンラインなどでの交流が多く、情報収集に手間取ったため
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Strategy for Future Research Activity |
すでに検討をはじめているメルロ=ポンティの「制度化と受動性」についての草稿研究を含めた分析に集中し、これまでの研究を制度の現象学として総合する。秋にメルロ=ポンティサークルという学会でその成果を発表すると共に、それを「制度の現象学」(仮題)と題した書籍の執筆に集中する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によりフランス渡航によるフランス国立図書館訪問および直接の国際交流が不可能になり、国内での文献研究および関連する学問の研究交流に切り替えたため。
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