2022 Fiscal Year Annual Research Report
ソクラテス以前哲学における「神」概念の非譬喩性に関する史的研究
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19K00104
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
三浦 要 金沢大学, 人間科学系, 教授 (20222317)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 神概念 / ソクラテス以前 / プラトン |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度(最終年度)は,原子論者と同時代のプラトンの神論とそのソクラテス以前哲学との関連を,特に『法律』第10巻における無神論批判の検討を通じて考察した。プラトンは『法律』第10巻で,モデル国家での不敬罪に関わる法律の制定に関連して文字通りの無神論的見解に対し入念な反論を展開し,神々の属性の説明の前提となる神々の存在そのものを論証することを目指す。『法律』より前にすでに『国家』においてプラトンは,神々の物語についての規範として,「神が本当にそうであるような性格を,つねに必ず与えなければならないこと」を立てたが,この規範は『法律』においても機能しており,プラトンがその存在を証明しようとしている「神々」とは,オリュンポスの宗教における人間的属性をもった伝統的な神々などではない。それは,脱神人同形論を前提とする神々の信仰につながるものであり,その限りで,彼の立場は「神々の存在は認めるが,それは国家の認める神々と同一ではない」という広い意味での無神論ということになる。これは,プラトンがクセノパネスなどと同様に,伝統的宗教よりも自然主義的神論への志向性を有していることを示唆する。プラトンが標的とする自然哲学は,神々の存立の余地を残す言わば「異端説」ではなく,むしろ,魂をもたない物質が宇宙世界全体の形成原因をなしていると主張して神々の存在を無条件に否定する無神論なのである。そして,ここで批判されている自然学説は,タレス以降の諸々の自然学説の特質を踏まえつつも,議論のために,つまり「魂=神」という有神論の立場との相違を鮮明にするために構成されたものと言ってよく,特定の初期ギリシア自然哲学者の説ではない。実際,原因説明から排除されていると言ってプラトンに批判された神,魂,知性,目的,秩序といった要素は,ギリシア自然哲学者たちの現実の自然学説できわめて重要な役割を演じているからである。
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