2019 Fiscal Year Research-status Report
Progress and Reaction in the Encyclopédie : scientific and philosophical controversies over the established doctrines
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19K00111
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
井田 尚 青山学院大学, 文学部, 教授 (10339517)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 百科全書 / ディドロ / アリストテレス / ベール / ブルッカー / 啓蒙主義 / 検閲 / 二重言説 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、研究課題の(A)十八世紀におけるアリストテレス主義の変容について、『百科全書』では哲学の「進歩」を妨げた「反動」の象徴とされがちなアリストテレス哲学に対する扱いが、十八世紀にどのような変容を遂げたのかを明らかにする作業に取り組んだ。 中世以来、哲学的権威として君臨してきたアリストテレス哲学も、十八世紀になると自然学の領域では凋落を迎えたが、キリスト教の教義やスコラ学と結びついたアリストテレスの論理学・形而上学は、コレージュや大学のカリキュラムとして温存された。 一方、このアリストテレスの哲学的権威は、無神論、唯物論など、当時の禁制思想を、異教徒の古代人の迷信・誤謬として論じる大義名分をディドロら『百科全書』の項目執筆者にもたらしたとも言える。『歴史批評辞典』の項目「アリストテレス」や『百科全書』の項目「(天地)創造」、「混沌」などを分析することで、ディドロらが、アリストテレスの無神論的・唯物論的見解に関する論点の数々を、ベールの『歴史批評辞典』やブルッカーの『哲学の批判的歴史』といったプロテスタント系知識人の著作から得ていたことを確認できた。 このことから、キリスト教の枠内で迷信や不寛容を批判するベールらの議論が、検閲を前提とする『百科全書』において、宗教や伝統などを検討するのに好都合な「合法的な言説」の役割を果たした可能性について論証し、『百科全書』の哲学関連項目でベールやブルッカーが頻繁に典拠とされる背景として、ディドロら啓蒙思想家がしばしば実践した二重言説、つまり、検閲を意識した「公共的な言説」と「秘匿的な言説」との使い分けの存在を示すことができた。 今年度はさらにこの個別研究に加え、『百科全書』に関する単著も書籍の形で出版することができ、充実した1年となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画に従い、アリストテレス哲学に関連の深い『百科全書』の複数の重要な項目群を、執筆に当たって典拠に利用されたベール『歴史批評辞典』やブルッカー『哲学の批判的歴史』の項目と比較検討する作業を通じて、デカルト哲学の登場によって自然学の領域では既に時代遅れの思想体系として冷遇されていたアリストテレス哲学が、ディドロら百科全書派の啓蒙主義者達がアクチュアルな関心を抱いていながら、キリスト教信仰に抵触しかねない感覚論、唯物論といった哲学的なテーマに関して「合法的」に論じるための隠れ蓑ないし錦の御旗として重宝された事情を、哲学的言説のレベルと文言の分析のレベルとで説得的に論証し、所期の目的をそれなりに達成できたから。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究計画の(B)「新哲学」デカルト主義の栄枯盛衰、(C)『百科全書』の科学・哲学項目における進歩と反動、(D)『百科全書』における科学の啓蒙と啓蒙の哲学、に順次取り組む中で、研究を発展させて行きたい。 そのため、今年度は、研究テーマの(B)(「新哲学」デカルト主義の栄枯盛衰)に議論を進め、十七世紀末から十八世紀前半にかけて、アリストテレス主義にとって代わる「新哲学」として一世を風靡し、大学にまで公認哲学として浸透を見せたデカルト主義が、『百科全書』において、天文学、物理学をはじめとする科学の分野ではニュートン主義など新興の対抗理論に乗り越えられる一方、哲学の領域では、いかに百科全書派によって人間理性の進歩の偉大な足跡として歴史化されつつ、その徹底した合理主義を迷信批判の原理として再利用されたかを明らかにして行きたい。 研究の推進方策としては、年度前半に『百科全書』およびデカルト関連文献のカードデータの採取などを終え、年度後半にかけて論文執筆などの成果公開につなげて行くことを予定している。
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[Book] 百科全書2019
Author(s)
井田 尚
Total Pages
232
Publisher
慶應義塾大学出版会
ISBN
978-4-7664-2558-1
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