2020 Fiscal Year Research-status Report
Progress and Reaction in the Encyclopédie : scientific and philosophical controversies over the established doctrines
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19K00111
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
井田 尚 青山学院大学, 文学部, 教授 (10339517)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 百科全書 / デカルト主義 / ダランベール / ペストレ神父 / イヴォン神父 / 感覚論 / 検閲 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、研究課題の「(B)「新哲学」デカルト主義の栄枯盛衰」について、『百科全書』のデカルト主義関連項目を対象に、十八世紀中期のフランスの科学的・哲学的言説において、デカルト哲学がどう受容・評価されたのかを、典拠の文献学的調査も踏まえて論じる作業に取り組んだ。 ニスロン『文芸共和国の著名人の歴史に役立つ回想録…』、プリューシュ神父『天空史』、バイエ『デカルト氏の生涯』からの引用のコラージュからなるペストレ神父の本文と、ダランベールの解説との接合からなる最重要項目「デカルト主義」を出発点とする参照指示先の項目群が、ダランベールによる数学・物理学関連項目と、イヴォン神父による形而上学・論理学関連項目に大別できることをまず確認した。 それらの項目群の精緻な読解により、ダランベールがデカルトの数学・物理学における先駆的発見の数々を称賛しつつ、デカルトの光粒子説や渦動説を科学的誤謬として斥け、ニュートンの引力説の優位性を印象付けようとしていること、イヴォン神父が、デカルトが受け入れた生得観念の存在を経験論・感覚論の立場から否定し、人間の霊魂の霊性と不死というキリスト教の教義に好都合なデカルトの心身二元論や動物機械論に疑義を呈する大胆な議論を試みていることが分かった。 両者のデカルト批判にはこうした違いがあるとはいえ、総論として、先人デカルトの偉大な功績だけでなく、デカルト一派がもたらした誤謬や偏見をも列挙してデカルト主義の歴史的な総決算を行うかのような言説のリレーに、社会的立場を超えて学問と科学の歴史的進歩を信じ、経験論(感覚論)、ニュートン自然学など最新の知見とイデオロギーを共有する百科全書派にふさわしい自己肯定・自己確認の言説が見られるのを明らかにできた。 今年度はこの個別研究に加え、前年度に出版した単著の書評会で『百科全書』に関する知見を深めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究計画に従い、項目「デカルト主義」を起点とする、デカルト主義に関連する『百科全書』の重要な項目群の参照指示のネットワークを網羅的に辿り、これらの執筆を担当したカトリック教会の開明的な聖職者ペストレ神父、イヴォン神父と、科学アカデミー会員のダランベールとのデカルト批判をめぐる論調の違いと、その中にも通底する百科全書派としてのイデオロギーを浮き彫りにすることで、所期の目的をおおよそ達成できたから。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究計画の(C)『百科全書』の科学・哲学項目における進歩と反動、(D)『百科全書』における科学の啓蒙と啓蒙の哲学、に順次取り組む中で、研究を発展させて行きたい。 そのため、令和3年(2021年)度は、研究テーマの「(C)『百科全書』の科学・哲学項目における進歩と反動」をめぐり、理論と自然法則との厳密な整合性が重視される科学の分野と、自然や人間を包括的に説明できる体系性や見解の独創性が重視される哲学の分野とでは、百科全書派によるアリストテレス主義、デカルト主義、ニュートン主義のイデオロギー的な色分けに、どのような違いや揺れが出て来るのかを、『百科全書』の科学・哲学項目の学説史と、定期刊行物など同時代資料との比較を通じて具体的に究明したい。 研究の推進方策としては、年度前半に『百科全書』の関連項目および定期刊行物の記事のカードデータの採取などを終え、年度後半にかけて論文執筆などの成果公開につなげて行くことを予定している。
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