2021 Fiscal Year Research-status Report
Progress and Reaction in the Encyclopédie : scientific and philosophical controversies over the established doctrines
Project/Area Number |
19K00111
|
Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
井田 尚 青山学院大学, 文学部, 教授 (10339517)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 啓蒙思想 / ニュートン / デカルト / 科学啓蒙 / 『百科全書』 / 科学アカデミー |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、十八世紀フランスのパリ王立科学アカデミーを中心とする科学界・学問界において、ニュートン主義(英国のニュートンの物理学・数学・哲学を支持する学派の理論の総称)の急速な台頭に伴って求心力を失ったとされるデカルト主義(フランスのデカルトの哲学・数学・物理学を支持する学派の理論の総称)が示した抵抗の実相を探るべく、1720年代から1740年代までに刊行された『パリ王立科学アカデミー紀要・論集』、『メルキュール・ド・フランス』誌といった学術雑誌、および当時の科学啓蒙書を対象に、主としてデカルト主義者の論者達による論文や著作の調査を行なった。 その結果、一般にフランスにおいてニュートン主義とデカルト主義の理論的ヘゲモニーをめぐる論争は、地球の形状をめぐるアカデミーの論争における、地球の実地踏査を踏まえたニュートン派の勝利をもって1730年代終わりに決着を見たとされているが、実際には、その後も理論的な優位性をめぐる両派間の論争は『百科全書』を含めて活発に続けられていたことが分かった。 特に、ニュートンの著書『プリンキピア』が既にもてはやされていたにもかかわらず、その数学的難解さやフランス人の愛国心も手伝って、いわゆる渦動の概念に基づくデカルト派の世界観に基づいた科学啓蒙書が公刊され、科学を愛好する当時の知識層の読者にそれなりに広く読まれていたこと、科学アカデミーの内部にも、終身書記フォントネル以外に、そうした啓蒙書の著者であるデカルト派のメンバーがおり、両派間の理論対立にそれほど単純には決着がつかず、ニュートン派とデカルト派の対立が、むしろ、対抗学派からの批判に応えようと理論を修正し鍛え上げる両派の努力を促したこと、などが浮き彫りになった。 デカルト主義が十八世紀前半の科学啓蒙に果たした役割を再評価する以上の研究の調査結果は、研究論文にまとめて公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画は、研究課題の(C)「『百科全書』の科学・哲学項目における進歩と反動」をテーマに、アリストテレス主義、デカルト主義、ニュートン主義のイデオロギー的な対立を、『百科全書』の科学・哲学項目の学説史と同時代資料の比較を通じて具体的に究明することが狙いであった。 今年度は、『ジュルナル・デ・サヴァン』誌や『メルキュール・ド・フランス』誌など、『百科全書』と同時代の雑誌や『パリ王立科学アカデミー紀要論集』の書評記事などを20年単位でしらみ潰しに調査し、その中で浮上したデカルト派の論者による、現在は知られていない科学啓蒙書の分析を詳細に行なった。 その結果、フランスにおいては、科学者の人間集団としてのデカルト派とニュートン派の世代交代が意外に緩慢であったこと、科学アカデミーを頂点とする学派論争においてニュートン主義にあっけなく敗れ去ったかに見えるデカルト主義が、科学愛好家ら知識層を対象とした当時の科学啓蒙に一定の役割を果たしていたことを明らかにできた。 以上の成果は、今年度予定していた研究計画に大枠において沿うものであるため。
|
Strategy for Future Research Activity |
来年度に関しては、研究計画の(D)「『百科全書』における科学の啓蒙と啓蒙の哲学」をテーマに、観察・実験による証明や数学的な法則性に「信」の根拠を置く啓蒙期の科学と、事実・証言の合理性や感覚経験との無矛盾性を「信」の根拠とする啓蒙期の哲学とが、『百科全書』の中でいかに互いに学問的領分を分かちながら連携し合い、啓蒙主義の合理的な「真理」の概念の形成と社会的普及に貢献したかを明らかにしたい。 研究の実施にあたっては、『百科全書』において度々引用・参照される『パリ王立科学アカデミー紀要年報』および『百科全書』を主要な一次資料として読み込み、それらの資料における科学的・哲学的言説を分析するとともに、当該テーマおよび周辺領域のテーマに関する研究文献など二次資料を収集・分析し、『百科全書』の科学・哲学項目の記述に啓蒙思想とのイデオロギーがどのように具体的に反映されているかを明らかにし、論文などの形で公表したい。
|