2022 Fiscal Year Research-status Report
Progress and Reaction in the Encyclopédie : scientific and philosophical controversies over the established doctrines
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19K00111
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
井田 尚 青山学院大学, 文学部, 教授 (10339517)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 『百科全書』 / 哲学 / 科学 / 啓蒙 / DEMONSTRATION / 証明 / 論証 / 演示 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、研究課題のうち、(D)「『百科全書』における科学の啓蒙と啓蒙の哲学」のテーマに関し、『百科全書』の科学項目において、しばしば学派間の論争を背景として、啓蒙の哲学がいかに科学的言説の正当化に用いられ、イデオロギー的な役割を果たしているかを明らかにすべく、一次資料となる『百科全書』の科学項目の読み込み、および論文の執筆を行なった。 具体的には、あらゆる知識ないし事実を客観的な信憑性を基準に篩い分ける『百科全書』の編纂方針を出発点に、科学項目においてDEMONSTRATIONの概念が「証明・論証」ないし「演示」として担う重要な役割に着目し、同概念を含む科学項目を中心とした大量の項目の読み込みと分析を元に論文を執筆・公表した。 同論文では、科学項目においてDEMONSTRATIONの概念が、「証明・論証」ないし「演示」として果たしている重要な役割と、数学以外の自然科学の諸分野におけるその方法上の困難とを、複数の具体的な事例を通じて浮き彫りにできた。 また、重力・引力など未知の原因の存在を認めつつ、未知の原因の結果に当たる現象の観察によって自然法則を証明すればよいとするダランベールの議論からは、自然科学の科学理論や科学的証明の出発点として哲学的な仮説や推論が担う重要な役割を改めて確認できた。 そして、動物の体温や化学を論じたヴネルの項目を検討することによって、体系的な誤謬理論の濫立による科学知識の進歩の停滞から哲学的教訓という糧を引き出し、化学の哲学的側面を百科全書派をはじめとする同時代のフィロゾフにアピールすることによって公論を味方につけ、化学の復権を図ろうとした科学者ヴネルのケースを通じて、『百科全書』の科学と啓蒙の哲学の意識的な連携と、公衆の科学啓蒙を目的とした『百科全書』の科学的言説のイデオロギー的傾向の一端を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画の課題の段階的なテーマとして設定した(D)「『百科全書』における科学の啓蒙と啓蒙の哲学」に基づいて、『百科全書』の科学項目において哲学と科学とを媒介する重要なキーワードの候補のひとつと考えられるDEMONSTRATION(証明・論証)の概念を軸に科学項目を中心とする多くの項目を横断的に精査・分析する中で、改めて同概念が『百科全書』において極めて重要な役割を果たしている様子を浮き彫りにできた。 また、その分析結果を踏まえ、複数の科学項目において同概念が科学的な明証性を担保すると同時に、同時代の科学者の学派間の論争を背景として、百科全書派の啓蒙主義的な科学観を代弁し、読者公衆の支持を獲得しようとするイデオロギー的な役割をも果たしていたことを論文の形で明らかにすることができた。 以上のように、研究課題の(A)から(D)に向けた年次テーマの段階的な発展を踏まえた本研究課題に関する研究は、今年度も概ね所期の狙い通りに順調な進展を見せている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度は、研究計画で示したとおり、「(A)から(D)のテーマに関する個別研究を総合した執筆活動および成果発表」に充て、一次資料の百科全書の哲学・科学項目のさらなる読み込みと成果発表を行いたい。 具体的には『百科全書』の科学・哲学項目において、百科全書派が、科学と哲学が未分化であった十八世紀の学問状況を積極的に利用し、科学の客観性と哲学のイデオロギー的性格を巧みに使い分けながら、当時の学問的布置を「進歩」と「反動」の対立軸で切り分け、いかに啓蒙主義的な学問知を正当化しようとしたかを、より大きな視点から論じる構想を抱いている。 最終年度に当たるので、研究成果は学会や研究会での口頭発表や雑誌論文、もしくは可能であれば著書の形で幅広く世に問いたい。
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