2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K00112
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Research Institution | Kokushikan University |
Principal Investigator |
菱刈 晃夫 国士舘大学, 文学部, 教授 (50338290)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ルター / アグリコラ(ヨハン) / メランヒトン / 律法 / 福音 / カテキズム / 反律法主義 / 律法の教育的用法 |
Outline of Annual Research Achievements |
ザクセン選帝侯領内での巡察が実施される1527年前後におけるメランヒトンの律法(法)と福音(愛)、規律と愛、罪の自覚と赦しの役割を、この時期のカテキズムとアグリコラのカテキズムの内容比較を通じて明確にした。両者の違いは律法理解に先鋭化されている。 メランヒトンがヴィッテンベルクに来たる1518年からおよそ9年間に、ルターによる宗教改革は予想以上のスピードで展開した。まずは、アグリコラとルター、そしてメランヒトンとの当初の関係、さらに当時の社会状況について、アグリコラに関する資料をベースに明らかにした。 次に、1527年のメランヒトンによるカテキズムの内容分析、あわせて同年アグリコラによって記された『子どもの教育』の内容分析を行い、さらに1528年のカテキズムとの比較を行った。両者によるキリスト者教育のスタンスの違いが、律法理解に集中していることが明らかとなった。 最後に、メランヒトンの律法理解を『巡察指導書』および晩年に近い1559年『ロキ』もあわせて明確にした。 アグリコラは神学者としての立場からカテキズムに取り組み、初期のルター神学をある意味で純粋に受け継ぐ形でキリスト者教育論を展開している。それに対してメランヒトンは、神学者ではあるものの何よりもまず人文学者として、ギリシア・ローマの古典教養の流れの中で、生涯にわたる人間形成と、律法の教育的用法を唱え、人間の持続的な成長と訓練の必要性を説いている。 赦しや愛だけで律法や規律を軽視する言説は、当日の混乱した状況に、さらなる拍車をかけることになる。要するに、愛と規律、福音と律法の両者は、時代や場所を変えても、人間の在り方・生き方や教育について根本的に考える際に、大きな問いを投げかける。両者のカテキズムが、それをよくあらわしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
求めていたアグリコラに関する資料や文献も概ね入手でき、それらを踏まえて、メランヒトンとの比較もすることができた。 アグリコラ自身の神学思想のさらなる探究、およびメランヒトン、そしてルターとの律法理解をめぐる齟齬の詳細については、まだ検討の余地が多分にある。 しかし、カテキズムをめぐっての両者の立場の相違は明確となり、メランヒトンのカテキズムがもつ意義や重要性も、ある程度明確にできたであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
アグリコラとの比較に初年から取り組んでいるが、『巡察指導書』の成立に至る、より詳しい状況の解明と、『巡察指導書』の先駆けとなる1527年の草稿の分析には、未着手のままである。 『巡察指導書』成立に至るまでの経過を、社会的状況の変化を踏まえつつ、メランヒトンの思想経歴も視野に入れながら、より明らかにする。そして1527年前後から1530年代のメランヒトンのカテキズムについて、検討を加える。
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Research Products
(4 results)