2019 Fiscal Year Research-status Report
ジェイムズ・ミルと哲学的急進派:功利主義をめぐる知の布置とネットワークの分析
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19K00122
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
川名 雄一郎 早稲田大学, 高等研究所, その他(招聘研究員) (20595920)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジェイムズ・ミル / 古典的功利主義 / 人間観 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は古典的功利主義者(哲学的急進派)の知的営為をジェイムズ・ミルを中心とした思想的・人的ネットワークという枠組みの中で捉え、様々な思想家によって担われた多様な諸理論からなる包括的な知の複合体としての古典的功利主義の多様性と統一性を明らかにすることを目的とするものである。このための研究の一環として、しばしば功利主義を特徴づける人間観とみなされている「自己利益の最大化を追求する合理的計算者」というモデルについて検討した。その内実を詳細に分析することなく、この人間観を古典的功利主義と結びつけてしまうことは、古典的功利主義思想の多様性と統一性を理解するうえで障害となってしまっている。このような観点から、古典的功利主義思想における自己利益優先型人間観の位置づけを明らかにすることを目的とした研究をおこなった。 具体的には、ジェイムズ・ミルの議論の特質や意義を、その他の功利主義思想家の議論と比較しながら検討した。彼の議論は、「フィクションと実体の理論」に基づいた論理学・認識論に基づいた議論をおこなっていたベンサムとは異なって、観念連合心理学と環境決定論をその理論的根拠するものであった。そして、哲学的急進派の多くが依拠していたのは、ベンサムの(ベンサムのものではなく)このジェイムズ・ミルの議論であった。 ただし、ジェイムズ・ミルの議論において「自己利益最大化」の認識は一貫しているわけではなく、これを理論的矛盾とみなすか対象による許容できる揺れとみなすか、そしてこの違いの原因は何であるかについて、歴史的コンテクストのなかで詳細に分析した。これについては次年度以降も継続しておこなっていくこととしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に予定していた具体的な研究について、資料の収集状況などによって、議論の方向性の軽微な変更も含めて、当初の計画からいくつかの変更があったものの、研究の進展には大きな支障は生じていない。また、次年度以降に予定していたもので前倒しで始めることができているものもある。これらを勘案して、研究全体としてはおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度には、まずは今年度の研究成果を論文としてとりまとめる予定である。 次年度については、新型コロナウィルス感染症の影響で、特に資料所蔵機関を訪問しての資料収集などに支障が生じる可能性が高いが、オンラインでの作業も含めて、研究計画の臨機応変な微修正によって対応していくつもりである。
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[Book] 論理学体系 42020
Author(s)
J.S.ミル/江口 聡・佐々木 憲介 編訳
Total Pages
452
Publisher
京都大学学術出版会
ISBN
9784814002429
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